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<ベルマーレの試練と再挑戦> “湘南の暴れん坊”が生きる道。 

text by

戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byToshiya Kondo

posted2011/03/02 06:01

<ベルマーレの試練と再挑戦> “湘南の暴れん坊”が生きる道。<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

フジタの撤退でかつてと練習場は変わったが、河川敷でのトレーニング風景は昔も今も同じ

反町があげた湘南再生へのキーワード。

 眞壁と大倉が攻撃的なスタイルにこだわるのは、理念という無形の力がクラブの財産になると信じるからだ。彼らの思いに共鳴した反町は、リーグ戦終了後に続投を表明する。退任を前提として他クラブから打診もあったが、自身3度目となるJ2での戦いを選んだ。「またイバラの道だ」と言葉に棘を滲ませても、表情に陰りはない。

「FCバルセロナは一日にしてならずで、積み重ねがあっていまがある。シャビが引退したらバルサは低迷してしまうのか。そうじゃないよね。我々のクラブにも、継続的に力を発揮するための可能性がある。それも、独自のやり方で。今回みたいに叩きのめされても、灰だけしか残らないクラブじゃないんだ」

 理念という糸を太く強く編み込んでいく一方で、変えていくべきものもある。再生へのキーワードとして、反町は「変化」をあげた。

「湘南の暴れん坊というDNAを残すのは大前提で、J2はリスク回避のサッカーをするチームが多いけど、J2仕様に染まらずにJ1というピクチャーを描きながらやっていく。同時に、フットボールのキャラクターは変えていくぞ。俺自身のキャラクターもな」

 反町だけではない。シーズン中は曇りがちだった坂本の表情には、頼もしい精気が戻っている。32歳のベテランは、伸び盛りの若手のようなメンタリティを膨らませている。

「練習でも試合でも、J1で通用するのかという物差しで自分と向き合っていきたい。それは、J1に上がらなければ知ることのできなかった基準で、僕の年齢でもまだまだ成長できると思うんです」

「育成や強化といったら湘南だよね、というクラブを目ざす」

 昨年末時点の見通しでは、新シーズンの予算は9.3億円まで絞り込まれる。J2のトップ5に入るかどうかという規模だ。「本当の体力は6.5億円から7億円」と眞壁は説明するが、「その金額ではサポーターへの背任行為になってしまう。基礎体力はあげていかないといけないし、5億円近い強化費がないとJ1は狙えない」と言葉に力を込める。J2降格からJ1昇格を経て、クラブもまた新たな領域へ踏み出そうとしている。

「これまでの10年は、十字架を背負っていたんですね。フジタが撤退して、新しい会社を立ち上げて、市民クラブという形で非常に厳しい状況のなかでやり繰りして、10年かかって何とか昇格できた。支援してくれる皆さんの願いは果たせたけれど、J1で明らかな格差を見せつけられた。我々は急激に20億とか30億の予算規模を持てない。そのなかで、どうやって将来像を描くのか。潰れちゃいけないところから走り出した10年は終わり、これからは別の意味でクラブが変わっていかなきゃいけない。評価されなきゃいけない」

 そのためには何が必要なのだろう。眞壁の答えは明確だった。反町の続投を願いつつも辞任を考えていた彼は、経営基盤を強固にすることで責任を果たそうとしている。

「育成や強化といったら湘南だよね、というクラブを目ざす。大倉さんにはお世話になった。反町監督のもとでプレーできて良かった。曺(貴裁)コーチに怒られたけど、あとからその意味が分かった。そんなふうに感じてくれる選手が一人でも増えていけば、それはクラブにとっての財産であり、最大の武器になる」

【次ページ】 反町が欧州で見つめた市民クラブの在り方。

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