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“つたない英語”が高木美帆を変えた。
オランダ人コーチが支えた銀メダル。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byTsutomu Kishimoto/JMPA
posted2018/02/13 11:30
コンマ2秒差で頂点に届かなかったとはいえ、オランダ最強の一角を崩したことに高木美帆の価値はある。
コーチのシンプルな英語で、考え方がシンプルに。
転機となったのは、ナショナルチーム立ち上げから1年が過ぎた後の2015-2016シーズン。オランダから来たヨハン・デビットコーチの指導を受けるようになってからだ。
小さな体格でいかに世界で勝っていくかを追求するがため、技術論が多くなりがちだった日本スケート界において、ヨハンコーチの指導は新鮮だった。選手別に数値を示しながら行なう綿密なフィジカルトレーニングはモチベーションを一気に高めてくれた。
そんな中、高木美帆に大きな変化をもたらした意外なキーワードがある。
“つたない英語”だ。
「ヨハンが来たことでナショナルチームの練習の雰囲気が変わったんです。英語を上手に聞き取れないので、ヨハンの言葉にひとつひとつ耳を傾ける。こちらがつたない英語で一生懸命話したら、ヨハンが歩み寄って聞き取ってくれる。
そうやってヨハンがシンプルな英語で説明してくれるうちに、自分の考え方もシンプルになっていった。大学2年(2014-2015シーズン)まではいろいろと考えすぎていたのですが、そこにシンプルな言葉が乗ったことで、考えがうまくまとまったんです」
全力でいくところと抑えるところを考えられるように。
ヨハンと出会ってから2年目の2016-2017シーズン、高木美帆はすべての距離で自己ベストを塗り替えた。ほとんどが4、5年ぶりのベストだった。
「技術面でシンプルになったことで、戦略面でペース配分もできるようになった。やみくもにスピードを出そうとするのではなく、全力でいくところと抑えるところを考えられるようになった。そこが一番変わったと思います」
そして3年目の今季。高木美帆は、バンクーバー五輪シーズンに見せた才能が本物であったことを示した。今季はW杯1500mで4戦4勝。金メダルを目指せる実力で平昌五輪1500mのレースを迎えた。