マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
菊池雄星と大石達也のブルペン観察。
ドラ1の速球は残酷に好対照だが……。
posted2018/02/13 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
埼玉西武ライオンズのキャンプ地「南郷」は、宮崎・日南からさらに南に車で30分ほど。
若きチームリーダー・秋山翔吾外野手が会うなり、
「こんな“へき地”まで、よく来てくださいました」
とねぎらってくれた。シーズン前の1カ月間、野球だけに打ち込むのにこれ以上ない、何もない土地だ。
山があって、海だってちょっと行くと、広ーいやつがあって、なんとも気分がよい場所だ。そんな自然の中に、キャンプのグラウンドがある。いちばん高い場所にメイン球場があり、“中腹”には室内練習場があって、ブルペンとサブグラウンドがあるのが“ふもと”である。
たとえばメイン球場で、菊池雄星のピッチングが始まると聞いて、すわっブルペンへ! と勇み立っても、次の瞬間「ちょっと待てよ。終わったあとに、またここまで登ってこないといけないな……」、そう思った途端に“ブルペン降り”をためらう弱い気持ちが湧いてくる。
それほど険しい取材環境にある。ブルペンから“メイン”に戻る登り階段は、間違いなく7階分はあると思われる。
菊池雄星、いい“角度”を見つけたな……。
そのふもとのブルペンで、菊池雄星のピッチングが始まる。左右に先輩投手が投げる真ん中で、まるで太刀持ち、露払いを従えた「横綱土俵入り」である。
いい“角度”を見つけたな……と思う。
本人、スリークォーターと表現しているが、実際はそこよりちょっと上。時計の文字盤でいえば、1時と2時の間ぐらいだろうか。実に気持ちよさそうに腕を振り下ろすから、キャンプ始まって1週間も経たないのに、もう“シーズンのボール”だ。構えたミットにめり込む轟音がここちよい。