プロ野球PRESSBACK NUMBER
事実上トライアウトは引退の儀式か。
選手たちに諦念が漂っていた理由。
posted2016/11/14 12:20
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
photograph by
NIKKAN SPORTS
2016年のプロ野球12球団合同トライアウトの会場となった甲子園球場のロビーで旧知のカメラマンと立ち話をしていると、彼がこんなことを口にした。
「そういえば、ことしは競輪の勧誘来てないなあ」
プロ野球の入団テストで競輪の勧誘? 話が飲み込めない。
よくよく話を聞いてみると、過去のトライアウトで球場に競輪関係者がパンフレットを机に並べ、競輪選手への転身を勧めていたことがあったのだという。人材不足に悩む競輪界は、元プロ野球選手が引退した年とその翌年に限り、競輪学校の第一次試験を免除するなどの優遇措置をとっていると聞いたこともある。たしかにずば抜けた体力を持つプロ野球選手のセカンドキャリアとして競輪はぴったりかもしれないが、復活のワンチャンスにかける真剣勝負の場で勧誘するというのは配慮が足りないのでは……。
そんなふうに思ったのは、トライアウトの現実を知らなかったからだ。
「合同入団テスト」とは言うものの……。
ことしのトライアウトには、投手42人、野手23人、計65人が参加した。受験者リストにはオリックス、楽天でプレーした守備の名手・後藤光尊や、セットアッパーとして巨人、DeNAで活躍した久保裕也の名前があった。彼らふたりはかつて1億円を超える年俸を手にしたこともある一流選手だが、一軍よりも二軍暮らしのほうが長かった受験者がほとんどだ。参加者リストに並んだ名前を見ても、顔が思い浮かばない。
そんな受験者たちは、カウント1-1の状態ではじまるシート打撃形式のテストで、己の実力をアピールする。
ピッチャーは打者3人。野手は4打席。彼らに与えられた機会は、これっきりである。
これではヒットを打とうが、三者三振にきってとろうが、ほんとうの実力を測定することなどできるはずはない。
審判も主審ひとりだけだ。ボテボテの内野ゴロでアウトか、セーフか、際どいタイミングの場面になっても、正確な判断を下す塁審はいない。ホームベースの後ろに立ったアンパイアが、「ううむ、ここはひとつセーフってことにしておきますかね」という感じで決めている。草野球ですら抗議したくなるようなケースもあったのではないかと邪推するが……結局、判定に文句をつける選手はひとりもいなかった。