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長谷川穂積は美しく散りなどしない。
記録より、記憶に残る王座返り咲き。

posted2016/09/20 11:30

 
長谷川穂積は美しく散りなどしない。記録より、記憶に残る王座返り咲き。<Number Web> photograph by Tsutomu Takasu

今後はまだ考えていないという言葉からは、いかに長谷川穂積がこの試合に全てをかけていたかが窺えた。

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Tsutomu Takasu

 突然「ウォーッ!」という大歓声が巻き起こり、立ち上がった観客によって視界は完全に遮られた。アリーナ席後方で試合を見守っていた私は、膝の上に置いたパソコンをもてあまし、中腰の状態でただあっけにとられるしかなかった。

 ウーゴ・ルイスが赤コーナーで棄権を申し出たのだ。この瞬間、国内最多となる16度目の世界戦に挑んだ長谷川穂積(真正)の、WBC世界スーパーバンタム級王座獲得が決定した。国内ジム所属選手5人目の3階級制覇達成であり、35歳9カ月での世界王座奪取は日本人最年長記録だ。いや、記録なんてどうでもよかった。ただ、長谷川というボクサーがリングで見せた熱い姿に、だれもが感情を爆発させたのだった。

 16日、エディオンアリーナ大阪で行われたダブル世界タイトルマッチは、早々にチケットが売り切れた。メインを張るWBC世界バンタム級王者、山中慎介(帝拳)と指名挑戦者、アンセルモ・モレノ(パナマ)の試合もさることながら、この日は長谷川を見に足を運んだファンが多かったに違いない。

佐藤洋太「勝つというイメージはなかったですね」

「あこがれの長谷川さんの最後の姿を目に焼き付けたいという思いで大阪まで駆けつけました。失礼ですけど、勝つというイメージはなかったですね……」

 こう語ったのは、元WBC世界スーパーフライ級チャンピオンの佐藤洋太だ。35歳の長谷川よりも3歳若い佐藤は、同王座の3度目の防衛に失敗した2013年に引退。いちファンとして岩手から来阪した元王者の言葉は、多くのファンの思いを代弁していた。

 バンタム級王座を10度防衛し、クラスを2つ上げて2階級制覇も達成した長谷川が最後に世界タイトルマッチを戦ったのは、2014年4月のことだった。

 IBF世界スーパーバンタム級王者のキコ・マルチネス(スペイン)に挑戦し、2度のダウンを奪われて7回TKO負け。既にボクシング史に名を残した長谷川である。このまま引退すると多くのファン、関係者は決めつけたが、長谷川は現役続行を決意し、記者会見では「まだ、強くなれる自分がいるし、長谷川のボクシングスタイルを確立したい」と語っていた。

【次ページ】 原点に戻る“打たせないボクシング”の再構築。

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