リオ五輪PRESSBACK NUMBER
「彼は世界で一番クールな人物」
内村航平に憧れた銀、銅メダリスト。
posted2016/08/11 15:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
JMPA
歓喜の団体金メダルから中1日。男子個人総合で内村航平が体操史に残る白熱の大接戦を制し、逆転勝利でロンドン五輪に続く2大会連続金メダルを獲得した。
「ヤッター!」
内村の雄叫びはかつてないほどの激しさだった。それが、いかに劇的な勝利だったかを物語っていた。
5種目を終え、残るは鉄棒のみとなった時点で、内村は76.565の2位。首位に立っているオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)との差は0.901あった。数字だけを見れば逆転は難しく思える差だ。
しかし、内村は昨年の世界選手権種目別鉄棒のチャンピオンであり、鉄棒を苦手としているベルニャエフのDスコアは、内村の7.1と比べて大きく劣る6.5。逆転は決して不可能ではない。
鉄棒は、内村が先に行い、最後にベルニャエフが演技をするという順番だ。とにもかくにもミスをしたらそこでおしまいという展開。内村が考えたのは「自分に集中し、自分の演技をしよう」ということだけだった。
そして、完璧な演技を見せた。
最強のライバル、ベルニャエフが小さなミスを……。
高さ抜群の屈伸コバチから始まり、G難度のカッシーナを美しく決め、コールマンを無難に持ち、団体決勝では反転してしまったアドラー1回ひねりも成功させた。伸身新月面の着地をピタリと決めると、自然とガッツポーズが出た。Dスコア7.1、Eスコア8.700、合計15.800の高得点だ。
内村の合計得点は92.365となり、大型スクリーンにはベルニャエフが優勝するのに必要な点は14.899であると表示された。ミスがなければ逃げ切れるという状況だった。
しかし、プレッシャーを感じての演技となったベルニャエフは、小さなミスを重ねた。D難度の離れ技であるヤマワキの後の車輪で肘が曲がり、最後の着地でも前に大きく動いた。
得点は14.800。この瞬間、内村の優勝が決まった。