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涌井の年俸調停で考えさせられた、
「スポーツと言葉」の微妙な関係。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKYODO
posted2011/01/25 08:00
年俸調停委員会のヒアリングに臨む西武の涌井秀章投手。ダルビッシュとの比較で報じられることが多いのも問題を複雑にしているとされるが……
西武のエース涌井秀章の契約交渉が三度やってもまとまらなかった理由も、この話を参考にすれば、おおよそ想像はつく。
あるベテラン選手が、契約更改の席の様子をこんな風に話していたことがある。
「必ずマイナスから言うんですよ。活躍した年でも『夏場があかんかったな』とか『春先はどうしたんや』とか。球団は給料を上げたくないですからね。
でも、まずはねぎらって欲しいわけですよ、こっちも。言い方でぜんぜん変わると思うんですけどね。それなりに上の人がちゃんと出てきて、『今年もおつかれさん。がんばってもらって悪いんやけど……』とか。そうでなくても金額みた瞬間、自分の希望額と開きがあったら、何を言われても『なんやねん』ってなるのに、傷口に塩を塗り込むように『活躍せんかったからや』みたいな言い方をするんですよ。ほんまね、すごい言い方をするんです。温かみがないというか、淡々としているというか。『おまえは機械か』って。で、こっちも、カチーンときたら『せやったら、俺は絶対に(判は)捺さんで』ってなるやないですか。そうすると今度は球団も『なんやその態度は!』ってなる。
選手も気持ちでやっている部分があるから、ちょっとでも『今年は辛抱してくれ。来年は期待してるから』みたいにポンと言われると、それだけでも『わかりました』みたいになるんですけどね。球団も企業だから上げたくないのはわかるし、選手も二度も三度もくるの、面倒ですからね。来季の準備もあるから、捺せるもんだったらさっさと捺したいもんなんですよ」
その選手いわく、他の球団の選手に契約更改の話を聞く限り、どの球団も似たり寄ったりだという。
涌井のコメントからは球団の誠意が見えない!?
涌井の場合も、おそらく球団は、今季の労をねぎらうよりも、まず優勝争いがかかったところで勝てなかったところを突いたのではないだろうか。あるいは、最初に14勝を評価する言葉くらいはあったのかもしれない。だが、球団側の相手を思いやる気持ちは涌井のコメントを読む限り、まったく本人には伝わっていない。
そのことに涌井が腹を立てたのだ。そして、その反応をみて、球団も態度を硬化させた。こうなると、もう「(判は)捺さない」「(金額)上げない」の応酬だけになってしまい、まとまるものもまとまらなくなる。