“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
断じて「悲劇のヒーロー」ではない!
桐光・小川航基、“本気”の才能とは?
posted2016/01/06 11:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
NIKKAN SPORTS
第94回全国高校サッカー選手権大会において、3回戦で姿を消した神奈川県代表・桐光学園のエースストライカー・小川航基。ジュビロ磐田に入団が内定し、U-18日本代表のエースでもある彼は、今大会ナンバーワンストライカーとして大きく注目された。だが、彼の最後の選手権は3回戦で幕を閉じた。しかも、あまりにも残酷な結末で――。
3回戦、小川を擁する桐光学園の相手は、桐光学園の所属するプリンスリーグ関東よりカテゴリーが上のプレミアリーグEASTに所属し、優勝候補筆頭の青森山田。
強豪校同士の戦いとあって、会場の三ツ沢球技場は満員に膨れ上がった。そして、その観衆を沸かせ、主役となっていたのが小川だった。後半アディショナルタイムに入るまでは。
3トップの真ん中に君臨する小川は、常にゴールに近い場所にポジションを取り、ポストプレー、ワンタッチパス、そしてドリブルにクロスへの反応と、多彩な動きを見せて青森山田守備陣を翻弄した。
32分には中央でMF鳥海芳樹がドリブルでDFを引きつけた瞬間、右サイドの裏にできたスペースに、中央からダイアゴナルランで飛び出していった。そこに鳥海からスルーパスが届くと、ゴールの位置を確認してから、対角線上に向かって思い切り右足を振り抜いた。
ボールに対する助走の角度がきつかったが、彼は強靭な足腰と、抜群のボディーバランスを駆使し、左足の回転軸をしっかりと固定したまま右足を振り切った。U-18日本代表でチームメイトのGK廣末陸がわずかにボールに触れたが、スピードと重さがあるボールは、ゴール左サイドネットに突き刺さった。
完全に“小川劇場”と化した三ツ沢球技場。
小川の才能が凝縮されたようなゴールに、会場はどよめいた。
そして43分には、右サイドを突破したMFイサカ・ゼインのライナーのセンタリングを高い打点のヘッドで叩き込んで、2-0。初戦の長崎南山戦(1回戦はシード)に次ぐ、2試合連続2ゴールに、三ツ沢は“小川劇場”と化した。これで通算4得点。得点王も見えてきた。しかも、もう1点獲ればハットトリック。観衆の目はより彼に注がれた。そして58分、CB2枚の間をトップスピードで抜け出してボールを受けると、飛び出したGK廣末をかわしたところで倒され、PKを獲得。蹴るのは、もちろん小川。しかし、彼の放ったボールはバーの上を越えていった。