世界陸上PRESSBACK NUMBER
ロールモデルと陸上選手の間で。
アリソン・フェリックスという生き方。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2015/08/21 10:00
世界陸上で史上最多タイとなる8個の金メダルを獲得しているアリソン・フェリックス。キャスターを務める織田裕二がファンであることでも有名。
世界陸上、オリンピックと取材してみて、アリソン・フェリックスほど、「ロールモデル」であることを意識しているアスリートは、なかなかいなかった。
ロールモデル。日本語にするならば、生き方の手本となるような有名人のこと。アメリカではアスリートに対して、「ロールモデルであって欲しい」という社会的な要請が強い。
では、なぜフェリックスにそうした要素を感じるのか。
完璧なまでの身だしなみ。会見ではいつも抑制された笑顔を浮かべ、「正しい回答」を口にする。
アリソン・フェリックスこそ、21世紀のアメリカのロールモデルだ。
フェリックスは早熟にして、息の長いアスリート生活を過ごしている。
国際舞台で大きな活躍を見せたのは、わずか18歳のとき。2004年のアテネ・オリンピックの200メートルで銀メダリストになった。
彼女の「スペシャリティ」は200メートルにあり、世界陸上では2005年のヘルシンキ大会で19歳にして200メートルを制した。「アリソン時代」の幕開けである。
勝者への敬意の裏に、隠しきれなかった悔しさ。
2007年の世界陸上大阪大会ではすでに第一人者との呼び声も高く、21秒81のタイムで優勝。しかし翌年の北京オリンピックでは、200メートルでベロニカ・キャンベル=ブラウンに苦杯を喫し、銀メダルに終わる。
このときのフェリックスの表情が忘れられない。
勝つはずのレースだったのに、負けた。それでも、私は勝者に敬意を表し、微笑まなければならない――。
フェリックスは悔しさを隠しきれなかった。そこからである。私がアリソン・フェリックスに人間味を感じるようになり、注目するようになったのは。