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さまよい続けて見つけた、元女王の新たな“居場所”。
~34歳ヒンギス、全豪ダブルス2冠~ 

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byHiromasa Mano

posted2015/08/08 10:30

さまよい続けて見つけた、元女王の新たな“居場所”。~34歳ヒンギス、全豪ダブルス2冠~<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

ヒンギスはミックスダブルスでもインドのリーンダー・パエスと組んで優勝し、2冠達成。

「うまいな、ヒンギス」

 思わず声が出てしまった。モニターに映っていたのは、ウィンブルドン女子ダブルス決勝。サニア・ミルザと組んだマルチナ・ヒンギスがロシアペアを第3セット2-5から逆転で破った試合だ。「これ以上、ドラマチックな勝ち方があるかしら」。'90年代に単複とも世界ランキング1位を極めた元女王は、34歳なりの落ち着きを保ちつつ、それでも心の底からうれしそうに話した。

 ヒンギスでなかったら、画面に目が吸い寄せられることもなかっただろう。彼女のダブルスは常にプレーが“動く”。近年の女子ダブルスは、後衛が強いショットを打ち、前衛が隙をついて飛び出しボレーで決めるパターンに終始しがちだ。我慢強さと思い切りの勝負。身体能力と技術は違っても、やっていることはインターハイと同じだ。だがヒンギスは、パートナーのショットや相手の返球、陣形に応じてプレーを選ぶ。パートナーの良さを引き出しつつ、ひらめき重視のリスキーなプレーも交ぜる。だからプレーは流動的で、ペア間のプレーが連動する。

「今は誰もがただボールを強く叩こうとするけれど、それは少し変よね」

 というヒンギス。力よりも技巧や戦術、プレースメントが彼女の持論なのだ。

元天才少女の技巧は、ダブルスでこそ生きた。

 四大大会の女子ダブルスでは'02年全豪以来13年ぶり10度目、つまり、'13年にダブルス限定で2度目の現役復帰を果たしてから初めての優勝となった。

「いつも言っていたように、私はシングルスよりダブルスのほうが上手だと思っている。より自然にプレーできるから」

 以前は冗談半分で言っていたが、今は本気でそう思っているという。

 16歳で四大大会を制し天才少女と呼ばれたが、'03年に22歳で引退表明。'06年に復帰するも翌年、ドーピング検査でコカインに陽性反応が出て、処分を受けた。才能だけで勝てた時期はたった数年で終わり、ウィリアムズ姉妹に代表されるパワーテニスの波にのまれ、苦しんだ。そこから彼女の迷走が始まったのである。だが、ダブルスなら今も技巧が通用する。幼い頃と同じように、思いのままに、「自然に」ボールを操れば勝てることが分かった。さまよい続けたヒンギスは、ようやく居心地の良い場所を見つけたのかもしれない。

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