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8番打者に投手を置く、という奇策。
MLBの策士の遊び心あふれる打順論。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2015/07/24 11:00
2008、2010年はレイズを率いてア・リーグを制覇。リーグ最優秀監督にも2008、2011年の2度選ばれているカブスのジョー・マドン監督。
最強打者を3番に置き、9番に野手を置くシナジー。
たとえばマドン監督は、「打順」についてラルーサ監督に尋ねた。
ラルーサ監督は、カージナルス時代にはマーク・マグワイア一塁手(引退)とアルバート・プホルス一塁手(現エンゼルス)というメジャー屈指のスラッガーを抱えていた。そして、1998年のシーズン途中にマグワイアを「3番・一塁」、そして8番に投手、という打線を組んでいる。前述のように2008年も投手を8番に置いて、プホルスを「3番・一塁」に置いている。もちろん、いずれのケースも「9番・野手」を生かすためだ。
メジャーリーグではしばしば、チームの最強打者を「3番」に置くことがある。それはマドン監督によると「初回から最強打者を打席に送り込めるから」だ。通算583本塁打のマグワイアも、最優秀選手賞を3度も獲得したプホルスも、当時のチーム最強打者である。今季のカブスの最強打者は昨季32本塁打、今季は現在まで16本塁打のアンソニー・リゾ一塁手である。だからマドン監督は開幕時、リゾを「3番・一塁」に入れた。
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「うちの先発投手陣が、塁に出ることすら出来ないぐらい打力に乏しいのは私だって知ってるよ。だから新人でも『9番・野手』に期待する。2巡目以降、3番打者の前に少しでも多くの走者が溜まる可能性があるからだよ」
最強打者の打席で走者がいる、という状況から逆算する。
カブスの投手陣の打率は.115である。現在、故障者リスト入り中の和田毅は今季無安打で、彼と同じ先発左腕のジョン・レスターなどは今季、メジャー10年目にして初安打を放って大きな話題になったほどだ(レスターの名誉のために書いておくと、彼は元々レッドソックスだったのであまり打席に立ったことがない)。
前出のようにラッセルは現在苦戦しているが、打率で1割以上は投手陣より上だ。出塁率も投手陣の.128より1割6厘以上高い.296である。
日本では「チームの最強打者は4番」という考えが一般化しているが、それは「なるべく多くの走者をためて最強打者に打順を回す」という発想から来ている。1番から3番までの内、一人でも出れば得点のチャンスが生まれるし、2人出れば得点圏に走者を進めることが出来る。3人とも塁に出れば満塁のチャンスだ。そういう発想がマドン監督の「8番・投手」、「9番・野手」、「3番・チーム最強打者」にも宿っている。
「打順の番号がそのまま打つ順番となるのは、初回だけだろう? 先発投手は3巡目ぐらいには代打を送られる可能性も高いが、2巡目以降の打順の方がずっと大事なんだよ」