ドイツ人記者たちの拍手が会見場に響き渡った。

　確かに、この2日前にフランクフルト国際空港に着いた際に、彼はこう語っていた。

「（ドイツ語は）全然しゃべれないです。でも、会見では少し練習して臨みたいなと思っています。ダンケシェーン！」

　しかし、ドイツ語とは全く異なる日本語を母国語とする選手が、これほどの長いドイツ語をメモも見ずに話しきるとは誰も予想していなかったのだろう。会見場には、ドイツ人記者たちが手を叩く大きな音が響き渡った。

　さらに、記者会見でスーツを着用した理由を問われると、武藤はこんな風に表現した。

「これだけの方に来ていただいて、自分なりに誠意を見せたかったですし、新たな気持ちで臨むという意味もあります。まずはしっかりと身を引き締めるためにスーツを選びました」

　武藤のこの言葉がドイツ語に訳されると、会見場は再び拍手に包まれることになった。

52年の歴史のなかでも“異例”の会見。

　翌日の『ビルト』紙には、「日本のスターがスーツで現れた」と見出しをつけ、スーツ姿の武藤がリフティングをしている写真とともに大きな記事が載った。そこには武藤を絶賛する言葉が並んでいた。

「武藤の入団記者会見は、ブンデスリーガの52年の歴史のなかでも異例のものとなった。この日本のスターは、マインツの入団会見に洗練された紺のスーツで現れたのだ。そして、彼は驚くべきドイツ語を披露した！」

　武藤のマネージメントの責任者を務める飯田修平氏（ポリバレント株式会社　代表取締役）は、この会見に臨むための武藤の準備を手伝い、その努力をサポートしてきた一人だ。飯田はこう証言する。

「まず、彼には入団会見に対してとても高いモチベーションがあったんです。スーツに関してもそうですし、会見のコメントに関してもそうです。彼は自身の想いを伝えること、そして、その伝え方をすごく大切にする選手です。その要素の一つとして、服装がありました。これまで入団会見に臨んだ色々な選手の写真や画像を用意したなかで、スーツが自分の意気込みなどを表現するためにベストな選択だと彼が考え、選んだのだと思います」

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