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サファロバの躍進に見る、“才能”と“実力”の関係性。
~元・天才テニス少女、28歳の覚醒~ 

text by

秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

PROFILE

photograph byHiromasa Mano

posted2015/07/02 10:30

全仏の決勝ではセリーナ・ウィリアムズ(米国)に、フルセットまで持ち込んだものの惜敗。

全仏の決勝ではセリーナ・ウィリアムズ(米国)に、フルセットまで持ち込んだものの惜敗。

 時々、第一線の選手から「彼(彼女)は才能がある」という言葉を聞く。言葉の主も優れた才能の持ち主なのだが、選手も羨望する別格が存在するという。全仏準優勝のルーシー・サファロバ(チェコ)もそんなタレントの一人だ。

 フォアもバックも角度をつけて左右両翼に相手を振る。クリーンヒットしているからボールは伸び、ライン際に落ちる。

「すごい才能だと思いました。このヒット力、なんだろう、と」。そう話すのは現役時代に対戦した杉山愛さん。「この子はくると思ったけど、なかなかこなかった。でもやっときたかという感じです」。成長を喜んでいるのが口調でわかる。

 初めて四大大会に出たのは'05年だから確かに時間はかかったが、昨年のウィンブルドン4強に続く快進撃は、28歳でようやく迎えた結実と言える。

 自分にできることを積み上げた不器用な選手が早く成功し、天才が伸び悩む例は案外多い。男子の元世界1位、最近は全豪オープンでの洒脱な勝利者インタビューが人気のジム・クーリエ(米国)も不器用で、バックハンドは野球の打撃フォームまがい、ジュニア時代はクリーンヒットできずに“ゴロ”ばかり打っていた。だが彼は同年代のアンドレ・アガシ(米国)より1年早く、20歳で四大大会の初タイトルを手にしている。

優しすぎる「良い子」のまま、勝ち上がれるのか?

 サファロバは、ショットの威力はあっても安定感がなかった。また、優しすぎる性格も災いしたのかもしれない。コーチのロブ・スティクリーが話している。

「ボールが確かにラインを捉えているのに、自分に自信がないから審判の誤った判定に妥協してしまう選手だった。良い人である必要はないんだ、そういう部分に相手はつけ込んでくる」

 もっとも、良い人であることと成績を出すことはサファロバ自身の中では矛盾しないらしい。「選手も仲良くすべきだし、私はそうありたいと思っている」という。元世界1位、引退したディナラ・サフィナ(ロシア)はSNS上で「ツアーで最も素敵な子」とつぶやいた。生き馬の目を抜くテニス界にあって、チェコの小さなクラブで育った「良い子」はしっかり存在感を放っている。

 元天才少女が迎えた開花。才能に恵まれなかった選手が成功を手にするのも痛快だが、この遅咲きの花も見応えがある。

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