野球クロスロードBACK NUMBER
ヤクルト・田中浩康が浴びた大歓声。
定位置を失い、11年目のコンバート。
posted2015/04/14 10:30
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Hideki Sugiyama
4月8日。ヤクルト対中日の試合が始まる18時の東京の気温は4度を下回っていた。桜が満開を迎えている季節とは思えない寒さである。
神宮球場を覆う寒気。それを、ひと振りで熱気に変えたのが、ヤクルトの田中浩康だった。
1-1で迎えた延長10回、2死満塁のチャンスで6番の自分に打席が巡ってきた。田中が心境を述べる。
「もちろん回ってくると思っていました。(回の先頭打者が1番ならば)6番にいると2アウト満塁のケースで打席に入ることは多いですから。みんなが繋いでくれたチャンスなんでね、ファンも打ってくれと思ってくれただろうし、なんとか前に飛ばしたい気持ちで打ちました」
寒気の中で「温かいプレーを見せられた」サヨナラ打。
1ボールからの2球目。浅尾拓也のストレートを捉え、鋭いゴロが三遊間を抜けた。チーム、そして自身としても今季初となるサヨナラ打。お立ち台に上がった田中は、寒空の中、球場に駆けつけたファンに向かって「みなさんに熱い……」とメッセージを伝えようとした。しかしその直後、状況を瞬時に察しこう言い直した。
「温かいプレーを見せられたと思います」
ヒーローインタビュー後も、一塁ベンチからライトスタンドへの挨拶が終わるまで、ファンたちの「浩康コール」の大声援が止むことはなかった。
「浩康が帰ってきた」
それは、チームとファンがずっと望んでいたことだし、誰よりも田中本人が、復活をアピールする日を待ちわびていたことだろう。
「もう、チャンスがあることが……あることがね、嬉しいです」
田中は、感慨深げに言葉を絞り出した。
プロ3年目の2007年にレギュラーに定着すると、ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞1回。しぶとい打撃に繋ぎの意識、堅実な守備と、そのいぶし銀のプレーでヤクルトには欠かせない存在となっていた。
しかしこの2年間、田中は不遇の時を過ごしていた。