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追い風でも、9.87秒は史上40人だけ。
トップ選手が語る桐生祥秀の「真価」。

posted2015/04/09 10:30

 
追い風でも、9.87秒は史上40人だけ。トップ選手が語る桐生祥秀の「真価」。<Number Web> photograph by AFLO

昨年は大学1年にして日本選手権で優勝し、国内では完全に追われる立場となった桐生祥秀。“高速トラック”織田記念での10秒切りが期待される。

text by

及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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AFLO

 9秒87。

 桐生祥秀(東洋大)は、日本人選手が長年挑んできた「10秒の壁」をいとも簡単に、あっさりと飛び越えてみせた。17歳の4月に10秒01と(当時)世界ジュニア記録に並ぶ快記録を出した少年は、2年の月日を経て順調に、そして着実に世界に近づいている。

 3月28日にテキサス州オースティンで行われたテキサスリレーで、19才になった桐生祥秀(東洋大)が9秒87の好記録を叩き出した。

「ジャパニーズ? おー。ジャパニーズが勝ったぞ! すごいな!」

 ロンドン五輪100m5位の実績を持つライアン・ベイリー(米国)など実力者たちを破って桐生が先頭でゴールラインを駆け抜けると、スタンドの観客からは大きな歓声が沸き上がった。

 残念ながら、当日は時折6m近い強風が吹くコンディション。桐生のレースも3.3mの追い風が吹いたため、参考記録に留まった。公認記録は2.0m以内。もう少し風が弱かったら、日本人初の公認9秒台、日本記録だったのに……と思った人は少なくないだろう。

あまりのタイムに、真価を図りかねる事態に。

 スポーツの世界では「たら」「れば」は禁句だ。しかし、メディアやファンが「もし2.0m以内でも9秒台を出せたのか」、「日本記録は更新できたのか」と考えてしまうのは自然の流れ。レース後はインターネットを中心にその話題で盛り上がった。

『追い風参考記録』だったために、「すごい記録だ」という言葉の前に「公認の2m以内でも9秒台に値する記録」「実力者たちに先着した」など色々と注釈がついてしまった。そのため、桐生の出した大記録の真価がどの程度なのか、はかりかねる人もいたのではないだろうか。

 正直に言うと、筆者もその一人だった。あまりにも凄すぎる記録だったため、現実味が感じられず、「ベイリーに勝ったし、すごいんだよね……?」と呆然とし、冷静にその価値を見極めることができなかった。

【次ページ】 追い風であっても、9秒87は史上40人しかいない。

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