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“被災馬”というもうひとつの運命を
私たちに突きつける映画『祭の馬』。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by3JoMa Film/Documentary Japan/TOFOO
posted2013/12/12 10:30
『祭の馬』は、12月14日より東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムにてロードショー、他都市では順次公開。詳細はhttp://matsurinouma.com/
太らせてから食肉として出荷される、引退後の競走馬。
ミラーズクエストは、2010年秋に美浦・成島英春厩舎の所属馬として、中山ダート1200mの3歳未勝利戦でデビューし、16頭中最下位に終わった。出遅れて、最後方のままの、関係者に「馬場掃除」と言われる競馬で、勝ち馬から6秒以上離された。一定期間平地競走に出走できなくなる「タイムオーバー」である。その後、地方競馬の岩手・佐々木由則厩舎に移籍し、翌11年1月まで水沢競馬場で3戦したが、最下位、10頭立て9着、最下位という成績で現役を引退した。
牝馬なら、このぐらいの成績でも繁殖馬として生まれ故郷に戻れることもあるが、牡馬だとまずあり得ない。乗馬や使役馬となることもできなかったミラーズクエストは、南相馬市で肥育を行う業者の手にわたった。引退直後の競走馬は、脚元をはじめ、あちこちガタが来ている。そうした馬を集め、じっくり休ませ、しっかりカイバを食わせ、ふっくらさせてから食肉として出荷する業者がいるということを、私はこの作品で知った。
そもそもサラブレッドとは特殊な生き物である。
そもそも、サラブレッドというのは、人間の都合によって、より速く走ることのできる血を残すために配合を繰り返されてきた、特殊な生き物である。
優れた競走能力を持つサラブレッドは、鞍上と一体になった美しい走りで、見る者に大きな感動を与える。そして、関わる人間たちに富と栄誉をもたらす。用意された舞台で力を出せるよう、人間たちは、せっせと水と飼料を運んで食べさせ、ぴかぴかに体を洗い、ブラシをかけてやり、ベッドとなる寝藁を取り替え、おしっこやボロ(馬糞)を綺麗に掃除する。こういう人間サイドからの献身的な働きかけがあるのは、馬が人間を食わせる競馬の世界ならではのことだ。