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イニエスタが再び示した
“因縁”を超えた友情。
~敵地に捧げられた白いシャツ~
text by

豊福晋Shin Toyofuku
photograph byGetty Images
posted2010/12/08 06:00

W杯決勝延長後半11分、右足でゴールを決めたイニエスタの「友情」は世界へ発信された
一枚の白いシャツが、エスパニョールのホームスタジアム、コルネリャの21番ゲートに掲げられている。
南アフリカワールドカップ決勝、スペイン対オランダ戦で決勝点を決めたアンドレス・イニエスタのものだ。
決勝の夜、イニエスタは得点を決めると、もうずっと前から決めていたかのようにユニフォームを脱ぎ、その下のシャツに書かれたメッセージと共にピッチを駆けた。
“ダニ・ハルケ 永遠に僕らと共に”
昨年の夏、合宿中に突然の心臓発作で急死したハルケとイニエスタは、昔から大の仲良しだった。
ふたりはユース代表時代のチームメイトで、家族ぐるみの付き合いもあった。その友情はバルセロナとエスパニョールという2チームの間に横たわるライバル関係を超えたものだったのだ。
エスパニョールで急成長を見せていたハルケはA代表入りも間近と言われており、イニエスタはいつかハルケと共に代表のユニフォームを着てプレーするのが夢だったという。
イニエスタに賛辞を送る“憎き敵”エスパニョールの選手たち。
イニエスタのその夢は叶うことはなかった。親友の名が書かれたシャツをエスパニョールのスタジアムに寄贈した彼はこう語っている。
「このシャツはここにあるべきものだ。あの得点と共に、ハルケも人々の心にずっと残り続けるだろう」
イニエスタの思いやりに、普段は憎き敵として削りあうことも多いエスパニョールの選手も賛辞を送っている。
イバン・デラペーニャは「サッカー界にもまだ人間味が残されてるってことだ。友情は何よりも大事だということを、イニエスタは示してくれた」と語り、ルイス・ガルシアも「決勝という歴史的舞台でハルケのことを人々に思い起こさせてくれて嬉しかった」と、本人に感謝の言葉をかけている。
ダービーでは投石や暴動も起こるなど、両クラブの関係は決して良好ではない。しかしこのシャツがきっかけとなり、今後はその関係も少し和らぐのではないか。
コルネリャでのバルセロナ・ダービーは12月19日。普段はバルサの選手には観衆から強烈な罵声が浴びせられるが、イニエスタには温かい拍手が送られるに違いない。
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