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“イチローの師”が広島から送り出す、
「アンパンマン」松山竜平の愛と勇気。 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byHideki Sugiyama

posted2013/08/07 12:10

“イチローの師”が広島から送り出す、「アンパンマン」松山竜平の愛と勇気。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

小学三年生の時にソフトボール少年団から競技をはじめ、九州国際大時代には全日本大学野球選手権で早大の斎藤佑樹から二塁打を放っている。

 顔はまるく、頬はうっすらと赤らんでいる。愛らしい表情。カープファンは親しみを込め、彼を「アンパンマン」と呼ぶ。

 松山竜平。プロ6年目にしてようやく主力への階段を駆け上がろうとしている、広島のニューヒーローだ。

 あわやサイクル安打。

 8月4日のヤクルト戦で松山が魅せた圧巻のパフォーマンスは、カープファンを満足させるのには十分だった。

 初回、1死満塁のチャンスでレフトフェンス直撃の先制二塁打。この一打で勢いに乗ると、4回には弾丸ライナーで右中間スタンドへ叩き込んだ。「(ノーストライク)2ボールだったので、1、2、3のタイミングでストレートだけを狙って打ちました」。自身も納得するほど、読みが冴えた一発だった。

 5回の2死満塁で迎えた第3打席では、打撃の幅広さも披露した。「相手が左ピッチャーだったんで、力まず自分のバッティングができればシングルでもいい」。江村将也の外角のストレートをシャープに振り抜くと、打球はショートのグラブをはじきレフト線へ転がる。「暴走です。鈍足なんでアウトかと思いました」と本人は苦笑いを浮かべるが、気迫の走塁が三塁打を生んだ。

昨年までの不甲斐なさを乗り越え、チャンスに滅法強くなった松山。

 あとはシングルのみ――。チームとファンの期待を背負った第4打席、右中間に鋭い打球を放つもセンター・上田剛史のファインプレーに阻まれ、第5打席もライトへ豪快に打ち上げたがフェンス手前で失速。球団史上6人目の快挙は夢と消えた。

「狙いましたけど、やっぱり難しいですね」

 しかし、その表情に悔しさの色はない。この日は3安打6打点。「僕は得点圏打率にこだわっているんで、いい仕事ができたと思っています」。そう言って松山は胸を張った。

 規定打席にこそ到達していないが、80試合に出場し打率は3割2厘と安定した数字を残し、得点圏打率3割6分とチャンスにも滅法強い(成績は8月6日現在)。

「自分のバッティングをする」――。今季、好調の理由を問われれば、松山は大抵そのように答える。月並みな表現かもしれない。しかし、その意識は、これまで結果を出せなかった自分の不甲斐なさを教訓としているからこそ、太く、根深く浸透している。

【次ページ】 「結果ばかりを求めてバッティングが小さくなっていた」

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