野ボール横丁BACK NUMBER
なぜ菊池雄星の球威は落ちたのか?
速球派の新人投手に待ち受ける罠。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2013/01/20 08:01
ドラフトで1位指名を受けた楽天・森雄大。「新人王を獲るぐらいの気持ちでやりたい。そして、いつかWBCのメンバーに入って、日本を代表するような左投手になりたい」
二軍で非常に優秀な選手が、一軍だと全然ダメな理由。
DeNAの後藤武敏も、かつてこう語っていたものだ。
「周りの人から、『ファームにいるときとぜんぜんフォームが違うぞ』って、いつも言われてましたね」
後藤は'03年、法政大学から自由獲得枠で西武へ入団。それからしばらくは、二軍では、いつも結果を残した。だが一軍に上がると別人のように萎縮してしまった。
「一軍で打てなかったらどうしよう……という気持ちが入ってくるだけで変わってきちゃう。受け身になってしまって、いつもだったら初球からいけるのに待ってみたり。仕草とかもぜんぜん違うみたいです。焦ってるように見えるってよく言われた。ファームだと自信があるから、余裕を持って打席に立てる。同じような気持ちで一軍でもできればいいんですけど……」
2人のフォームを狂わせたもの。それは、自分の中に芽生えた恐怖心だった。つまり、相手によって変わる前に、自分で自分を変えてしまったのだ。
これは森だけでなくすべてのルーキーに共通することだが、彼らにとって何より大事なことは、まずは、今持っている自分の力をそのままプロの世界でぶつけることだ。変えるのであれば、その結果を受けてからで十分である。
「まずは150を追い求めてとことんやりたい」でいいのだ!
もちろん投手の場合、球速が落ちたからといって、それは必ずしも悪いことではない。150キロの棒球よりも、130キロのキレのあるボールの方が速く見えるということは往々にしてある。
だが、森はこう話す。
「僕は性格的にも技術的にも器用なタイプではない。だから、ちょっと抜いて、制球力で抑えるみたいなことはできない。それにボールのキレという意味も、いまひとつ、わからないんです。だから、まずは150を追い求めてとことんやりたい。力で押すタイプになりたいと思う」
森が言うように、わからないものは、わからないままでいいのだ。それが当然なのだから。下手な想像を膨らませないためには、それが最善の策のように思える。