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“香川の本音”と“ゼロトップ”の真相。
日本代表欧州遠征、密着レポート。 

text by

ミムラユウスケ

ミムラユウスケYusuke Mimura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2012/10/20 08:02

“香川の本音”と“ゼロトップ”の真相。日本代表欧州遠征、密着レポート。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

ブラジル戦、ハーフタイムにザッケローニ監督から出た指示について「もっと前に出て行けと監督に言われた。怖がらず、こういう相手と(試合が)できるのは素晴らしい経験なんだ、と言われましたね」と試合後にコメントした香川。

 香川真司はマンツーマンが嫌いだ。

 記者と選手が交わるのを許されるエリア、MIXゾーン。多くの記者に囲まれる選手、あるいは端の方で声を潜めながら話す選手。さまざまな光景が広がる。

 もちろん、記者と選手が一対一で話をする姿もある。マンツーマンだ。ある記者は言う。

「質問する者とそれに答える者、それ以外の人の目があると、回答者たる選手は本音を語らない。取材の基本は一対一で話すことだ」

 たぶん、それは真理だろう。

 香川は大勢の記者の前で話をするのは厭わないが、個別に呼び止められて話すのは好まない。そういうスタイルの選手が香川だけではないのもまた、一つの真実だ。

「ただ、もっと……もっと、やらなきゃいけないことがあるんです」

 10月12日に行なわれたフランスとの試合で両チームを通じて唯一のゴールを決めた香川の前には大勢の記者が群がった。日本代表についての話が終わり、マンチェスター・ユナイテッドで置かれている苦しい状況について質問が飛ぶと、香川は告白を始めた。

「(マンチェスター・ユナイテッドは)本当に厳しいチームですし、サッカーもがらりと変わりますし、いろんな葛藤があるのは事実ですけど……」

 フランス戦の勝利の直後だ。少し感極まっているようにも見える。語気を強め、こう続けた。

「事実だからこそ、僕はやっぱり、今は結果を求“たた”し」

 舌が上手く回らなかった。

「やっぱり、何かきっかけを作りたかったという意味では、それがゴールであって。それが残せたことは、次への自信にもつながる。それはドルトムント時代から変わらないし。ただ、もっと……もっと、やらなきゃいけないことがたくさんあるんです。そういう意味では満足は出来ない」

 複数の記者の前で苦悩を吐露するケースは決して多くはない。だから、マンツーマンで話をして、苦悩を聞きだそうと目論む記者がいるのだ。にもかかわらず、香川が大勢の前で心の奥底を少しだけのぞかせたのは、それほどまでに強く、深く思うところがあったからなのだ。

 しかし……。

 ブラジル戦の前日の夕方。香川は、自らの前に群がる記者にむかって、表情を崩した。

「自分のスタイル的にあまりセンタリングでゴールを決めるというのは……」

 香川は、MIXゾーンでよく微笑むタイプではない。

 苦悩を明らかにしてから、およそ65時間後に微笑んで見せた。いったい、その変化の理由は、どこにあるのだろうか。

【次ページ】 「ゴール『は』素晴らしかったと思います」

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