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“香川の本音”と“ゼロトップ”の真相。
日本代表欧州遠征、密着レポート。 

text by

ミムラユウスケ

ミムラユウスケYusuke Mimura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2012/10/20 08:02

“香川の本音”と“ゼロトップ”の真相。日本代表欧州遠征、密着レポート。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

ブラジル戦、ハーフタイムにザッケローニ監督から出た指示について「もっと前に出て行けと監督に言われた。怖がらず、こういう相手と(試合が)できるのは素晴らしい経験なんだ、と言われましたね」と試合後にコメントした香川。

「ゴール『は』素晴らしかったと思います」

 10月11日、フランス戦の前日に香川は力を込めて語っていた。

「必ずボールポゼッションで上回れる、といったら変ですけど、いいところには行けると思っています。技術的に見れば日本のほうが上手くまとまっているなというのは感じているので、それを出せればアウェイゲームであろうと、ポゼッションできるのかなと思っています」

 しかし10月12日、いざフランスとの戦いが幕を開けると、前半は予想していた展開とは少し異なっていた。実際、香川はこんな表現でこの試合を振り返っている。

「ゴール『は』素晴らしかったと思います」

 フランスとの戦いでは、ボールを支配することが出来ず、相手の攻撃に肝を冷やす場面も少なくなかった。後半になってからは相手に疲れと焦りが見られたこともあって、巻き返すことはできた。ただ、その陰には川島永嗣ら守備陣の奮闘があった。後半43分、カウンターから今野泰幸、長友佑都とつながれたボールをゴール前で合わせて決勝ゴールを決めた。しかし、それは主導権を握って戦いたいという戦前の想いとはまったく異なる状況でのゴールだったのだ。

「今日の試合の戦い方は弱者が強者を倒すものとしては完璧ですよね?」と声をかけると香川は声を出してうなずいた。

「うん、うん」

 試合前に考えていたプランとは異なる戦いを強いられたことについてどう思うか問われると、こう語り始めた。

「いや、だから、僕らが試合後に話したのは『もっとボールを支配してやりたかった』ということでね。『後半の回せている時間帯はあったけど、それを前半から出したかった』って話したんです。前半からね、うまくポゼッションできる時間帯であったり、攻撃的な時間帯を少しでも増やせるように、(ブラジル戦では)もっとトライしてやりたいなと思ってます」

「いかにゴール前で、良い意味で遊べるかというか……」

 10月15日。フランスから勝利を収めた夜から3日後、日本代表の面々はスタディオン・ヴロツワフにてブラジル戦前日の公式練習を行なっていた。

 1時間強の練習を終えたあと、MIXゾーンではいつものように香川の前に記者たちが集まってきた。ずいぶんリラックスしている。

「自分のスタイル的にあまりセンタリングでゴールを決めるというのが好きじゃないかも(笑)」

 香川は、さらに続ける。楽しそうに。でも、力を込めて。

「コンビネーションで崩していくスタイルが、自分の良さでもあるし、好きだから。もっとトライしたいという気持ちはあります。上のレベルに行けば行くほど、難しいですけどね」

 コンビネーションを構築していくための最良の道は、実戦をこなすことだ。自分たちよりも力の劣る相手が真っ向勝負を挑んできてくれれば、この実戦練習はスムーズに進むかもしれない。その一方で、ブラジルのように格上のチームと戦う喜びも香川にとっては何物にも代えがたい。

「だから、そういう相手(ブラジル)に対して、いかにゴール前で、良い意味で遊べるかというか、パスをつなげるか、ですよね! もちろん、パスをつないでいるだけでシュートに行かなかったら、それはそれでダメ。ただ、トライしたいし、そういうサッカーをしたい」

 前向きな言葉が次々と湧き出てくる――。

 香川が日本代表について、これほどまで嬉々として語るのは、いつ以来のことだったろうか。

 真っ先に思い出されるのは、2011年8月に札幌で行なわれた韓国戦を振り返っていたときのことだ。香川が2ゴール、本田圭佑が1ゴールを決め、3-0で韓国を一蹴した試合で、香川はチームメイトにこう声をかけている。

「もっと、パスを回していこうよ!」

【次ページ】 ブラジルのプレーには香川が大好きな“遊び心”がある。

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