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“香川の本音”と“ゼロトップ”の真相。
日本代表欧州遠征、密着レポート。 

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ミムラユウスケ

ミムラユウスケYusuke Mimura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2012/10/20 08:02

“香川の本音”と“ゼロトップ”の真相。日本代表欧州遠征、密着レポート。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

ブラジル戦、ハーフタイムにザッケローニ監督から出た指示について「もっと前に出て行けと監督に言われた。怖がらず、こういう相手と(試合が)できるのは素晴らしい経験なんだ、と言われましたね」と試合後にコメントした香川。

ついに……ザッケローニ監督が“ゼロトップ”を指示!

 右サイドバックの内田篤人は、ディフェンダーらしい目線から、この布陣の意図を説明する。

「監督が言っていたのは、『1トップどうこうじゃなくて、流動的にポジションチェンジをしながらやれ』と。例えば、1トップがポンといるだけなら、向こうも対応しやすいと思うのね。でも、あのフォーメーションはそうじゃなくて。つかみどころないというか、みんなが上手く動いて、パスも回していく。人が動き、それで他の人がスペースに入っていくという感じ」

 前半9分には中央にいた香川と、そのやや右にいた本田がワンツーで抜け出し、強烈なシュートを放った。15分にはやや右寄り、下がり目の位置にいた本田から、中村に渡り、そこからDFラインの裏に飛び出した香川へ。オフサイドになってしまったが、流れるような攻撃が続いた。

 もっとも、12分、25分と立て続けに失点して、前半のうちに2点差をつけられてしまうのだが。

 後半になると、戦い方はさらに変化する。中村が下がり、乾貴士が入る。1トップの本田と、右MFの清武は変わらず、香川がトップ下にポジションを移し、乾が左MFを務めることになった。

 後半5分、右サイドのコーナーキック。清武のショートコーナーを近くで受けた香川が中を向く。ペナルティエリアにいた本田にパスを出し、リターンを受けた香川は中央方向にドリブル。そして、左足でシュートを放った。相手GKは一歩も動けなかったが、ボールは右に外れてしまう。あるいは後半10分、左サイドの遠藤保仁からのパスを本田がスルー。これを受けた香川は間髪いれずに、ペナルティエリアにパスを出す。本田がシュートを放ったが、右に外れてしまった。とはいえ、後半も守備の隙をつかれて、2失点。試合は0-4で終わった。

「後半の形というのは、僕はすごいやりやすさを感じた」

 ブラジル戦後のMIXゾーン。試合後にロッカールームでザッケローニ監督から選手たちに話があったため、その話が終わったタイミングでほとんどの選手が同時に出てきた。選手の動きに合わせて、記者も動き、あたりは混沌とする。その中でも、香川はずっと最後の方に出てきた。

「もっとブラジルを本気にさせたかった。もっと粘り強くやれればもっと面白いゲームになったんじゃないか」

 香川はやはり、悔しさをにじませた。しかし……。

 トップ下に入った自らの前に本田、右に清武、左に乾が並んだ後半について、はっきりと、こう語った。

「後半の形というのは、僕はすごいやりやすさを感じたし、もっとやっていきたいという強い気持ちはあります」

 ブラジル戦前に喜びをあらわにしたのは、前述の通りだ。ただ、惨敗を喫した悔しさと敗戦の責任を口にしながらも、香川は希望を口にした。希望の源はどこにあるのだろうか。

 ドルトムント時代、輝きを放ち続けた香川の活躍について、多くのドイツメディアが躍起になって伝えようとしていた。技術力、想像力、敏捷性、献身性……。その中で、欠かせないキーワードになっていたのが、「Spielfreude」だ。

 プレーする喜び、を意味するドイツ語である。

 あるいは、Number791号の記事で、香川の成長を傍らで見守ってきたクルピ監督は貴重な証言を残している。

「大事なのはサッカーが好きで仕方が無くて、それでご飯が食べられることに“喜び”を感じているということ。(中略)そういう意味では真司は輝いていました。例えば90分の試合をこなしたあとでも、『どこかでサッカーをしないか?』と誘われたら行くような選手だったと思います」(※原文ママ。ただし、“”については追加した)

 ブラジルとの試合のあとに香川が噛みしめたのは、そんな喜びではないだろうか。

 香川はトップ下でのプレーを望んでいる。それはマンチェスター・ユナイテッドでの入団会見において、ファーガソン監督の右隣で自らのポジションについて高らかにこう宣言したことからも明らかだ。

「中央の選手です」

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