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リーグ改編とDH制の行方。
~ナ・リーグでもDH制導入か?~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2012/03/11 08:00

リーグ改編とDH制の行方。~ナ・リーグでもDH制導入か?~<Number Web> photograph by Getty Images

MLBを代表するDHのオルティス。彼のような選手の働き場所が増える?

 少し先の話だが、大リーグがまた改編されることになった。ヒューストン・アストロズが、ナ・リーグ中地区からア・リーグ西地区へ引っ越すのだ。時期は2013年から。

 これによって、ナ・リーグとア・リーグはどちらも15球団ずつに分けられる。東、中、西の各地区も、それぞれ5球団ずつが属することになる。となると、反射的に浮かぶのは機会均等とか地ならしとかいった言葉だが、ことはそう単純ではない。

 最大の問題は、両リーグが奇数の球団を抱え込むことだ。小学生でもわかることだが、そうなると、試合を組む場合にかならず1球団があまってしまう。これを解消するには、ほぼ毎日、インターリーグのカードが組まれなければならない。

 いいじゃないか、目先が変わって、と喜ぶ人もいるだろうが、これには厄介な側面が伴う。両リーグの制度のちがいが、くっきりと浮き彫りにされるからだ。

 もっと具体的にいうと、DH制の有無だ。

交流戦で浮き彫りになるDH制の有無によるリスク。

 現在、ナ・リーグの球場で行われるインターリーグの試合ではDH制は採用されていない。つまりア・リーグの投手は、不馴れな打席に立ち、不馴れな走塁を行わなければならない。すると当然、事故が起こりやすくなる。

 記憶に新しいところでは、'08年当時、ヤンキースに在籍していた王建民投手が、走塁の際に足を痛め、以後、元の姿に戻れなくなってしまったことがあった。もっと最近の例としては、今年、ヤンキースからパイレーツに移籍したA・J・バーネットが打撃練習中に自打球を眼に当て、2カ月間の戦線離脱を余儀なくされる事故があった。要するに、ア・リーグの投手にとっては、打ったり走ったりする行為はかなりのリスクを背負う。

 逆にいうと、ア・リーグの球場で行われるインターリーグの試合ではナ・リーグの球団が苦労する。

 そもそも、ナ・リーグの球団はDH制を計算に入れたチーム作りをしていない。つまり、打撃のエキスパートや第4の外野手を準備したり養成したりしていないことが多い。これでは、やりくりが大変だ。あたふたして、妙な打順を組んでしまうことも珍しくない。

 では、ということで近ごろささやかれているのが、ナ・リーグでもDH制を採用するという発想だ。一般的にいって打撃戦は人気があるし、DHのスポットが15から30に増えれば、選手の就業機会も広がる計算になる。アルバート・プーホルスやプリンス・フィルダーがFAでア・リーグの球団と長期契約を結んだのは、当然、将来のDH転向を視野に入れているからだろうし、もしナ・リーグにDH制が存在したら、ヴラディミール・ゲレロや松井秀喜やジョニー・デイモンの就職先もずっと前に決まっているはずだ。

【次ページ】 ナ・リーグのDH制の採用は時代の趨勢ではあるが……。

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