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吉田沙保里、絶対王者の貫禄。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byShino Seki

posted2007/04/25 00:00

吉田沙保里、絶対王者の貫禄。<Number Web> photograph by Shino Seki

 来年に迫った北京五輪で、日本の金メダル一番手は誰か。候補は吉田沙保里をおいてほかにいない。

 4月14日のクイーンズカップで圧倒的な強さを見せて優勝し、2001年に始まった連勝はついに106。04年のアテネ五輪金メダル、世界選手権4連覇など、実績は枚挙にいとまがない。

 これだけ長い間勝ち続けてこられた理由の一つは、技術の進化にある。

 もともと吉田が世界を争うまでに台頭したのは、タックルという大きな武器があったからだった。

 多くの選手は、一度沈み込むような動作をとってから、タックルの動作に入る。それに対して吉田は、かまえから、そのままタックルに入っていく。抜群の瞬発力とともにもたらされる正面からの高速タックルは、分かっていてもかわしきれるものではなかった。

 それでもいつかは研究される。だからアテネ以降は、以前のようにはタックルを簡単に決めることはできなくなってきた。ではどうしたか。正面タックルに加え、片足タックル、持ち上げるタックルと、バリエーションを増やしたのだ。正面タックルという絶対の武器を警戒する相手は、警戒し過ぎるあまり、他のタックルにはまることになる。

 グラウンドの攻防にも磨きがかかった。タックルで倒し、そこからさらにポイントを積み重ね、フォール勝ちをも狙う力強さが今の吉田にはある。

 もう一つの理由は、「勝者のメンタリティ」を備えたことだ。

 たとえばアテネ五輪前の北島康介は、「自分が勝って当たり前」であるかのようにプールに威風堂々、入場してきた。あるいは谷亮子の試合での態度もしかり。そうした風格をまとった選手は、自分の力を疑わない。過剰な緊張に呑み込まれない。つまりは力を出し切れる。それは対戦する相手にとって無言の威圧となる。吉田にも、明らかにそれが身についてきたのだ。

 勝利に安住することなく、勝つ中で課題をみつけ向上を続けた。やがて王者たる物腰を漂わせる。106連勝という結果に、それが表れている。

 昨年12月の全日本選手権、今回のクイーンズカップの優勝で、吉田は9月の世界選手権代表に選ばれた。ここで優勝すれば北京五輪代表が確定する。

 抱負を問うと、吉田はこれまでと同じ言葉を口にした。

 「北京までは無敗で連覇したいです」

 その先が今までと違っていた。

 「その次のロンドン五輪も勝ちたいです。そして東京でやるなら2016年も。そのときは母になっていると思いますが、やれると思います」

 母でも、と聞くと、連想するのは谷亮子だ。谷亮子の五輪での結果は、これまで金2つ銀2つ。それを上回る結果を、本当に作りそうな予感をさせる。

 北京で優勝してもいないのに気が早すぎる、と思われるかもしれない。だがそんな想像をしたくなるほどに、吉田の存在感は今、圧倒的なのである。

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