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K-1に背を向けた男、
“野良犬”小林聡の引退。  

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph bySusumu Nagao

posted2007/04/05 00:00

K-1に背を向けた男、“野良犬”小林聡の引退。 <Number Web> photograph by Susumu Nagao

 破天荒な引退試合だった。弟弟子・前田尚紀との壮絶な殴り合い。

 前日、同門の山本真弘は「ふたりとも手加減できない人たちなんで、凄いことになるのでは?」と戦々恐々としていたが、その通りの展開になった。

 藤原ジムで一番苦楽をともにした仲とはいえ、手加減は一切なし。弛んだ腹でリングに上がって、場内から笑いを誘う引退エキシビションマッチなんてクソ食らえ。前田の猛攻に一瞬足を止めた主役は、そう叫びたかったに違いない。3月9日、東京で“野良犬”小林聡は魂のこもった180秒間のド突き合いを見せて、16年に及ぶ現役生活に幕を下ろした。

 漢の匂いがプンプン漂うキックボクサーだった。5~6年前まで多くの日本人キックボクサーは「打倒ムエタイ」を目標にあげていた。が、ここ数年は地上波のゴールデンタイムに定着したK―1の影響を受け、「K―1に出たい」と漏らす選手が急増中。キック本来のロマンより、人気と金。そんな流れに小林は「みんなK―1、K―1っていうなよ。ちょっとはキックボクサーとしてのプライドを持てよ」と牙を向けた。出るだけで満足するなら、キックは完全にK―1のサテライトになってしまう。最後までK―1に背を向けたからこそ、小林は人をひきつけるオーラを発していたのだろう。

 試合になると、ハラハラさせられっぱなしだった。'01年9月には当時のラジャダムナンスタジアム・ライト級王者テーパリットをKOで撃破。師匠の藤原敏男以来、23年ぶりのムエタイの現役ライト級王者を破るという快挙をやってのけたかと思えば、格下相手のとりこぼしも多かった。完璧でないからこそ、試合のたびにファンは一喜一憂するしかなかった。

 人と同じことをするのが大嫌いなヘソ曲がりだった。'90年代、キックボクサーの武者修行といえばタイが定番。そうした中、小林はあえて微笑みの国に背を向けてオランダに足を運んだ。ムエタイの本場で汗を流したら、なおさら打倒ムエタイは果たせないと思ったからだ。キック史上初めてワンマッチ興行を企画したり、前代未聞の引退試合を実行に移したのも、徹底してオリジナルにこだわった結果だった。小林ほど強さと人間臭さと個性を兼ね備えた選手はいない。小林の引退で格闘技界の野良犬は絶滅した。

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