今こそモータースポーツBACK NUMBER

ホンダ優勝で破られたジンクス 

text by

西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

PROFILE

photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2006/08/22 00:00

ホンダ優勝で破られたジンクス<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 8月6日、ハンガリー・グランプリでジェンソン・バトンと第3期F1挑戦中のホンダがついに“初”優勝を遂げた。首位を走るアロンソのリタイアに助けられたとはいえ、バトンも14位スタートのハンデを跳ね返しての見事な勝利だった。

 ホンダが第3期挑戦を始めたのが2000年。それから7年、115戦目の初勝利だったが、バトンもまた2000年がF1デビューでイギリス期待の星と騒がれながら惜しいところで勝てず、114戦目の初勝利。最高位は2位(×4回)で、シルバーコレクターの呼び声高かった。ちなみにバトンの方がホンダより1戦少ないのは、2003年のモナコ・グランプリの試走でクラッシュし、決勝出走を見合わせた一件があったからだ。

 バトンの114戦目の初勝利はF1グランプリ史上なんと3番目に遅い記録。トップが124戦のR・バリチェロ、2位に117戦のJ・トゥルーリ、3位にバトン、4位が110戦のG・フィジケラ、5位が96戦のM・ハッキネン……となっており、現役ドライバーがトップ4まで独占しているのは面白い傾向である。

 それにしてもバトン、そしてホンダが勝つのになぜこれほど長い時間がかかったのだろう。その大きな原因のひとつは、第3期ホンダを新興チームとすれば、チームおよびドライバーどちらにも優勝経験がなかったことを挙げたい。F1グランプリにはひとつのジンクスがあって、優勝未経験のチームとドライバーの組み合わせが初優勝を挙げる例は稀なのである。上記遅咲きドライバー達もバリチェロ=フェラーリ、トゥルーリ=ルノー、フィジケラ=ジョーダン、ハッキネン=マクラーレンと、いずれも優勝経験チームで初優勝を達成している。だから、ハンガリーでホンダが勝つとしたらバリチェロの方だったはずで、実際バリチェロは予選3位でその可能性が高かったのだが、タイヤ戦略の違いでジンクスは破られてしまった。

 ドライバーもチームも初優勝という例はいまから20年前、1986年メキシコ・グランプリのゲルハルト・ベルガー+ベネトン(現ルノー)まで遡らねばならないほど。今年のハンガリーは雨が混戦の原因を作ったが、86年メキシコもマンセルが腹痛、プロストがエンジンの1気筒を失い2位に終るなど、大番狂わせのレースだった。実はこの時ベルガーのベネトンは極少数派のピレリ・タイヤを履いており、思い切りソフトなタイヤを投入した戦略が“当った”という経緯がある。

 しかしどんな形であれ、ジンクスを破ったあとのドライバーとチームが強いことはその後のベルガーがフェラーリへ移籍して大成し、ベネトンも後に常勝チームとなり、いまのルノーに継承・発展している。

 バトンとホンダの2勝目はいつになるのか?これまた興味深いチャレンジである。

F1の前後の記事

ページトップ