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世界一退屈な街の世界一贅沢なフットボール。 

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph byNaoya Sanuki

posted2008/12/04 21:39

世界一退屈な街の世界一贅沢なフットボール。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 外国人関係者が苦笑していた。

 「照明が基準以下で、FIFAから改善を求められています。この国のお偉方は命令されるのが嫌で、勝手に物事を進めたがる」

 送風装置に飽き足らず、カタール人は快適な環境を生み出そうと前代未聞のスタジアムを考え出した。「地下スタジアム構想」だ。

 「ラップトップのコンピュータのように、地面が開閉するのです。実はドーハ郊外の工業地区に、ほぼ出来上がっています。将来的には、スターズリーグの会場すべてが地下方式に切り替わるかもしれません」

 また、4年前には日本の「Jヴィレッジ」に相当するトレーニング施設「アスパイア」が、アジア大会メイン会場の敷地に造られた。この地では世界中から招かれた指導者が、若年層を鍛えている。敷地には学校が併設され、250人の選抜選手が生活しているという。

 環境は申し分ない。だが重要なのは、そこでプレーする選手の質である。

 「我々の夢は、ブラジルやイタリアに比肩するレベルに到達することです」

 協会関係者が語った理想は、果たして実現するのだろうか。

 だれもが羨む財力を持つカタールだが、言い方を変えると金しかない。ブラジルが王国であり続けていられるのは、多くの人々がボールを蹴り、多くの人々がサッカーを見、多くの人々がサッカーを語り尽くしているからだ。カタールは違う。少ない人々がプレーし、少ない人々がサッカーを見、少ない人々しかサッカーを語らない。人口が少ない上に、サッカーが文化になっていない。

 クラブに通う子どもはいても、街中の空き地に草サッカーの風景はない。歓声が聞こえてきても、クリケットに興じるインド人を見る羽目になるだろう。スターズリーグを観に行くと広大な空席を目撃することになる。

 10チームで構成されるスターズリーグでは5年ほど前、バティストゥータやイエロといった大物が余生を過ごしていた。大枚をはたいてワールドクラスを引き抜き、世界の目をカタールに向けさせることが狙いだった。

 そのベテランが役目を終え、近年はワールドクラス未満でも働き盛りの男たちが集まっている。エメルソンやアラウージョ、マグノ・アウベスといったJリーグのブラジル勢がいて、スイス代表のハカン・ヤキンもやって来た。ちなみにエメルソンはクラブの上層部と揉めて、2カ月練習にも参加せず、とうとうギニアの怪人フェインドゥーノに、10番を奪われてしまった。

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