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スター選手は不要 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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posted2008/12/03 00:00

スター選手は不要<Number Web> photograph by AFLO

 今夏船出したイタリア代表リッピ監督の意図するものに、攻めの激変がある。ドイツ大会の既存選手に頼っていてはチームが進化しないと、若手FW選手を起用して走力サッカーを目指した。幸いなことに走れるセカンドストライカーは星の数ほど存在する。それが選手らにいい刺激となって、ストライカーによる代表の座を巡る大争奪戦が幕開けしたのだった。FW勢に与えられる6つの指定席は以前にも増して希少価値となり、中でも異彩を放つサンプドリアのカッサーノは「アズーリ(イタリア代表)確保」に敏感に反応した。

 リーグが個の力が問われる11月に入ると、カッサーノは躍動した。とりわけ前節のカターニャ戦では相手の急所をえぐる芸術的なパフォーマンスで2ゴールを奪う快進撃を見せつけると、その時を待っていたかのようにリッピ監督へ猛アタック、代表復帰を願った。ところが同監督は「セリエAの選手なら誰だって代表には憧れるもの」と説教じみた言葉を使って、カッサーノの招集に難色を示した。

 リッピイズムにはスター選手は不要。

 誰もが認める高い能力を持つカッサーノに「指定席は誰にもない」と告げることで一見、リッピ監督は荒療治を施しているようにも思えた。ところが、スター選手に頼ろうとする他人任せの心理が今のアズーリにとっていかに危険かを指揮官は読み取っていた。代表への飢餓感が高まる攻撃勢の中で監督が指名したのはスターではない。ペペ、クアリャレッラ、モントリーボそしてロッシと、その選考ぶりは、イタリア代表が一流選手をあえて必要としないことを如実に表していた。ドイツ大会の延長というイメージを切り離すためなのか、初采配から一流選手の起用に疑問符を打っていた。

 監督就任時から指揮官が見据えた目標はW杯でなく、間近に迫ったコンフェデレーション杯にある。

 一流選手の特長を出すことがチームの勝利につながるというブランド志向によって世界制覇を達成したリッピ監督ではあったが、自身2度目のイタリア代表は世界のトッププレイヤーが織り出す芸術的なサッカーにはなれない。ユベントス時代から絶大な信頼を置いていたあのデルピエロまでも、「トップスター」という理由で代表の視野に入れていないことを匂わせた。

 名将が描く「走力サッカー」に不可欠なのは選手間の意思統一。それを遂行するには“無垢”な選手の方が適していたのだろう。振り返れば2年前の夏、ドイツで鼓舞したDFグロッソも無垢なジョカトーレで、試合を重ねる毎に彼は「リッピ色」に染まっていった。わずかに金色を帯びていても、所詮白いキャンバスのような新生チームに「ドイツ大会での私のコマ」に劣らない真の強さを植えつけるには、W杯までは時間があるという打算的な考えは許されないのか、リッピ監督はさらなる強攻策に出た。

 4試合を消化した時点で招集した選手数は34人。4年前の就任時(同じく4試合目)に比べると11人も少ない。初招集に関してはかつての13人から5人に減少し、使える選手を吟味して早い時点でのチームの結成を図った。こうすることで、心の準備すなわち選手に強い結束力を身につけさせた。スター選手を犠牲にして、短期間でリッピ監督は負けないイタリアを見事に復活させたのである。

 セリエAの申し子カッサーノは皮肉にもリッピ監督にとって扱いにくいモノに映った。一流プレイヤーゆえに纏わる代表への絶望視。カッサーノへのアズーリの道が再び開くのはもはやトリッキーなプレーではなく、献身的な守備なのかもしれない。

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