「自信を持つには、練習でしっかりやりきるしかない」

　バンクーバー五輪代表の切符を手に入れた高橋は、大舞台へ向けて残りの期間のテーマとして、しきりに「練習を重ねて」「もっと練習でしっかりやって」と口にする。

「僕は練習でやったことが、試合に出ると思うんです。練習でできていないなと思っているときは、試合でいろいろな欲や感情が逆に出てくるんですね。よく見せようとか、よけいなことをしたり焦ったり。練習でできているなと思ったときは落ち着いてます。だから、自信を持つには、練習でしっかりやりきるしかないんですね。僕には、『なんとかなるさ』という発想はないですね。そういうことを言う選手もたしかにいるかもしれませんが、たぶんそれは、練習しているという裏付けがあるから言えるんじゃないか。自分も裏付けがあればそう言えるかもしれないですが」

　理想どおりの演技ができた大会として、'06年12月、名古屋で行なわれた全日本選手権をあげる。ショート、フリーともに1位。フリーでは、4回転を含めすべてのジャンプを成功させ、大差をつけて優勝している。

「ほんとうに、失敗する気がしなかったですもんね。オリンピックでも、ああいう風になれれば」

バンクーバーが最後の五輪。語り継がれる演技を見せる。

　練習をやりきったという自信を持って臨むこと。それは、トリノの結果をもたらしたプレッシャーへの対処にもなる。

「優勝した全日本選手権も含めて、まだ今シーズン、完全にできたと思えた演技はありません。だからこそ、もっと練習をやらなければいけない」

　と言う高橋は、今、バンクーバー五輪をこのように思い描いている。

「トリノから1年、1年と過ぎて、バンクーバーが近づくにつれて、金メダルを獲ることの難しさが実感されてきました。でも、目標を高く持たないと、成長もないと思うので、目標を下げることはしたくなかった。そこはかわりません。そのうえで、バンクーバーでまず成し遂げたいと思っているのは、大舞台で自分に負けない、プレッシャーに負けずに演技する、ということ。今まで大きな舞台で力を発揮できないことが多かったから、なによりも、プレッシャーに勝ちたい。結果よりもまずそれですね」

　そして付け加えた。

「オリンピックについて言えば、4年後のソチは、僕は考えていません。今回が最後のオリンピックになります。だからこそ、集大成にしたい。高橋大輔はこういう選手だよなと、のちのちまで語り継がれる演技をしたい」

　まっすぐ前を見つめた高橋大輔は、静かな、しかし、確固とした口調で話を結んだ。強い決意が表情に浮かんでいた。