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今野泰幸 静かなる激情家。 

text by

小宮良之

小宮良之Yoshiyuki Komiya

PROFILE

posted2007/02/08 23:05

 「小学校と高校の時の監督に、“私生活が悪いとサッカーにも影響するぞ”と諭されたことがあって。その言葉がいまも頭から離れずに残っているんです。ゴミはしっかりゴミ箱に入れないと気が済まないし、ボールに座るなんて無礼はもってのほかで。乱れた生活を送っていたら、自分はいいプレーはできないと思ってしまう。自分の考えは曲げないところがあるというか。なんつーか、真面目すぎるかもしれません」

 今野は恥ずかしそうに頭をかいた。好きな映画は『ALWAYS― 三丁目の夕日』。理由は和めたから。ジブリ映画も愛する。アットホームな感じがいい。趣味は温泉でのんびり。夜の街に繰り出して騒いだりはできない。だから生活は地味。その姿は人ごみに紛れてしまえば見つけだすのは難しいだろう。

 だが、サッカーに対する思いだけは誰にも負けないものを持っている。

 「優れたボール奪取力が、'94年W杯で優勝した元ブラジル代表のマウロ・シウバを彷彿させる」とこちらが言いかけたときのことだ。彼は「俺は守備だけの選手にはなりたくない」と強い口調で言った。

 「欲張りだから、俺は守備も攻撃もやりたいんです。だから両方できるボランチは面白い。攻撃に絡むボランチは世界的にも増えてきているし、点も取れるのが理想ですね。ボランチに長い距離を攻め上がられると相手も怖いし、(マークに)付きづらい。回数は多くなくていいけど、確実にゴールにつなげられるプレーを増やしていきたいんです」

 その今野が、なぜ日本代表でストッパーとしてプレーしているのか。それはオシムがすでに説明している。「選手にはどんな場所でもクレバーにプレーできるユーティリティー性を求める」。今野と同じく本来はボランチの阿部勇樹も、代表の最近のゲームではストッパーを務めている。ポジションの枠を越え、流動的でクレバーなプレーをできる選手が求められているのである。

 事実、今野はポジションの枠組みに囚われずに攻撃面でも異彩を放っている。昨年11月のサウジ戦では果敢に攻め上がり、切り返しから絶妙なクロスを我那覇和樹の頭に合わせて得点をアシスト。さらに自陣から左サイドに打ち込んだくさびから、だめ押しとなる3点目を演出している。

 「オシムさんからは、“前線に行っていい時と悪い時、そのタイミングをもっと嗅ぎ分けろ!”とアドバイスされています。まだまだ勢いで上がっているだけのところはある。もっとゴールの匂いを嗅ぎ分けられるようにならないと」

 虎視眈々とゴールを狙う今野は、いまやボランチやストッパーといったポジションの違いを超えた“試合を動かすプレーヤー”になろうとしているのかもしれない。

 そしてインタビューの終わりに聞いた。

──中田英寿という巨星が日本サッカーから消えたいま、個として存在感を発揮できるリーダーが早急に求められている。代表の牽引車になる決意は?

 「ドイツワールドカップを見ても思いましたけど、一人かわし、二人かわしてシュートできる個人の打開力がないと、世界では通用しない。組織は大事だけど、結局サッカーは個の強さ。自分はもっと成長しないといけない。日本代表の中心というのは、俺にはまだ早いと思います。まずはJリーグの常勝軍団でプレーしないと。常にリーグ優勝を狙えるような戦いをしていきたいんです。その中で経験を積んで、自信を持つことができたら……。その時こそ、代表の中でのリーダーにもなれると思っています」

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