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ジョシュ・バーネット 大器は目覚めた。 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

PROFILE

posted2006/08/03 00:00

SPECIAL FEATURES

[彼らの未来図(1)]ジョシュ・バーネット 大器は目覚めた。

布施鋼治=文

text by Koji Fuse

 熱い男だ。5月5日、PRIDE無差別級GP開幕戦で、高阪剛がマーク・ハントにKO負けを喫し、ボロボロの状態で控室に戻ってくると、ジョシュ・バーネットが血相を変えて追いかけてきた。その時の感動を高阪は忘れることができない。

 「大粒の涙を流しながら、僕に抱きついてきたんですよ。そして自分のことのように悔しがってくれた。あんな抱擁を受けたのは初めて。なんだか漫画の主人公のように熱い奴ですよ。ジョシュが多くの日本人選手に好かれているのがわかるような気がしますね」

 以前、高阪はジョシュが住むシアトルを拠点に活動していた時期がある。当時は仲のいい練習仲間だった。現地で高阪はジョシュから何度もサムライの息吹を感じたという。

 「人に気を使うところとか人を敬うところとか妙に日本人っぽいところがある。そういえば、彼と付き合っていてイヤな思いをしたことは一度もないですね。例えば、僕の試合が近くなると、こっちが『そこまで君の時間を割かなくてもいいよ』と恐縮するくらい練習に付き合ってくれるんですよ」

 身長191cm、体重112kg、体脂肪13%(本人推定)。まるでスーパーマンのように均整のとれたジョシュのボディを目の当たりにしたら、数年前まで彼が横ッ腹に贅肉のついたアンコ型の総合格闘家だったなんて誰も信じないだろう。ハント戦の翌日、すこぶる上機嫌なジョシュに「以前、お腹に乗っかっていた贅肉は?」と訊くと、右手の親指と人指し指で横ッ腹を無理やり摘んだ。

 「まだちょっと残っているよ。ここを減らすのが一番大変」

 腹筋を見ると、きれいに割れていた。グッドシェープ。自然と話題はコンディション作りに及んだ。

 「自分の体をきちんと理解して、いつ何を食べたらいいのかを把握できたら問題はない。必ずしもダイエットフードだけを口にしているわけじゃない」

 その言葉に偽りはない。日本滞在中、ジョシュが足繁く通うのは焼き肉の「牛角」。カルビやロースなどがお気に入りだ。だからといって暴飲暴食はしない。コンディションの維持に日頃の節制は必要不可欠。普段からジャンクフードや油で揚げたものは一切とらない。

 「炭水化物をとるにしろ、少しだけ。それもトレーニングした直後だけに限定して、夜には絶対とらないようにしている。コーラ? NO!― NO!!― 炭酸飲料や砂糖が入った飲料水は絶対に飲まない」

 アメリカに遠征した時には必ずジョシュの自炊(得意料理はターキーとブラックビーンズのグリル!)に付き合う総合格闘家の阿部裕幸も、最近とみに程度を増してきた彼の節制ぶりには感心している。

 「ジョシュはオーガニック(化学肥料や農薬を使用しない野菜や無添加の食料品)を専門に扱うスーパーから購入した素材から料理を作る。味付けはコショウやハーブが中心。できるだけ塩分は控える。塩の摂取量を減らすと、代謝がよくなるんですよ」

 ジョシュがハント戦に快勝した夜、阿部は彼を行きつけの鳥料理屋に連れていった。そこでジョシュの目に止まったのは滋養強壮の効果があることで知られる韓国料理の参鶏湯。その話題を振ると、ジョシュはほっぺたが落ちそうな表情を浮かべながら日本語で叫んだ。

 「サンゲタン、ヘルシー。チョ~、オイシイ」

ミルコに敗れ、格闘家を辞めようと考えたことも。

 いろいろな顔を持つ男でもある。趣味は漫画、アニメ、特撮、ゲームなど日本のサブカルチャー。東京滞在時、オフになると決まって秋葉原や中野ブロードウェイに足を運ぶ。『北斗の拳』に心酔するアメリカ人にとって、片言の日本語を操ることはたやすい。シアトルにある自宅はフィギュアやコミックで埋めつくされているが、今年に入ってからというものお宝の山も埃をかぶりがちだ。

 だったら主は何をしているのかというと、カリフォルニア州アナハイムのホテルに滞在しながら、現地でトレーニング三昧の日々を送っている。少なくともPRIDE無差別級GPの開催期間中は、そのスケジュールが変更される気配はない。ジョシュの日課はトレーニング、食事、休養をシンプルに組み合わせたものだ。指導するのは様々な種目のアスリートのフィジカルトレーナーを務めてきたルー・スミスと元修斗世界ライトヘビー級王者で現在はMMAのトレーナーを務めるエリック・パーソン。スミスは肉体改造の、エリックはスパーリングのトレーナーだ。アナハイムでの日常を語るジョシュは活き活きとしていた。

 「スミスとエリックに出会うことで、ようやく自分は正しい環境の中でトレーニングができるようになった。その前は『どこかにいいパートナーはいないかなぁ』と悩みながら、ずっとひとりでトレーニングを続けていたからね。今だからいえるけど、昨年秋、ミルコに負けた直後には『もう辞めようかな』という気持ちにさえなったよ。腕のケガは完治していなかったし、フラストレーションもたまっていたんだろうね」

(以下、Number658号へ)

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