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人間はレーシングカーに追いつくことができるか。 

text by

大串信

大串信Makoto Ogushi

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posted2007/11/29 00:00

 いま、フォーミュラ・ニッポンの選手たちの間に、パワーステアリングの設置を車両規則上許すべきだとの声が上がっている。パワーステアリングといえば、元々は腕力の弱い老人やご婦人が乗用車を快適に運転できるよう開発された装置である。それを、プロのレーシングドライバーがなぜ欲しがるのか。なんと軟弱な。多くの方はそう思うだろう。

 だが、以前から言うようにレーシングカーと乗用車は似て非なる乗り物である。グラウンドエフェクトという空気の効果を利用し、路面に吸い付いて高速で走行する現代レーシングカーのステアリングは想像を絶するほど重い。長いレースになると筋力が追いつかなくなるという。

 近年のレーシングドライバーは、こうした性質を持つレーシングカーを操るために、筋力トレーニングを重ねている。トップドライバーたちのレーシングスーツを脱がせると、アスリートとして見事に鍛え上げられた肉体が見られるはずだ。だが機械技術の進化は著しく、人間の能力をどうやら超えてしまいそうなのだ。

 アメリカのトップフォーミュラ、IRLで男勝りの活躍をしているダニカ・パトリックが、腕力の不足を補うために通常よりも大径のステアリングを使っているというのは有名な話だが、国内のフォーミュラ・ニッポンでも以前、筋力が追いつかない選手が反応の鈍い大径ステアリングを要求したという話を聞いた。一方、そのチームメイトの道上龍がハードな筋力トレーニングをこなし、同じマシンを小径ステアリングのまま操縦したという事実は興味深い。

 しかし、ついにトップドライバーまでもが限界を口にし始めた。その苦しさをいかに乗り越えるかがアスリートの本分ではないかという反論も聞こえるが、高速時の操作ミスは大事故につながるという心配はある。一方、パワーステアリングによって進路変更が容易になれば、格闘戦がやりやすくなってレースは激しくなり、ファンサービスにつながるという指摘もある。

 F・ニッポンを運営する日本レースプロモーション(JRP)は、現時点ではパワーステアリング導入の予定はないとしているが、議論は続けるべきだろう。

 ちなみに、F1GPカーにはとうの昔にパワーステアリングが装備されている。

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