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<文武両道のススメ> 久木田紳吾 ~史上初の東大出身Jリーガー~ 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byTakahiro Ichikawa

posted2011/04/19 06:00

 欧米に比べ、日本にはスポーツと学問を両立させる素地が整っている
とは言いがたい。そんな環境のなか、困難な課題に立ち向かい、見事に
両立してみせた3人の現役アスリートたちに、努力と工夫の過程、
その情熱の根底にあるものについて尋ねてみた。

  Number776号では、岡田優介(バスケットボール日本代表)、
小平奈緒(スピードスケート)、久木田紳吾(Jリーガー)の
現役アスリート3人に連続インタビュー。Number Webではその中から、
初の東京大学出身JリーガーとしてJ2ファジアーノ岡山でプレーする
久木田紳吾のインタビューを特別に全文公開する。

 おそらく、多くの人にとって東京大学への入学は至難のことに違いない。そしてサッカーのプロ選手になることは、より難しいことではないか。いずれも困難な目標であるのに、両方をかなえた青年がいる。東京大学工学部を今春卒業し、サッカーJ2のファジアーノ岡山に入団した久木田紳吾である。

 どのように両立を果たしたのか。そもそも、東大に進んだのなら進路はいろいろありそうに思える中で、プロのサッカー選手になったのはなぜか。

「もともと、小学校低学年の頃から休み時間によくやるくらいサッカーが好きで。小学3年のときにクラブチームに入って、中学、高校とずっと続けていました。やっている以上、プロとか日本代表への憧れはありました」

 だが、大学からもプロからも、どこからも勧誘を受けることはなかった。

「小さい頃から勉強もサッカーもわりとできたし、それで『負けたくない』っていうプライドもあると思う」と語る久木田にとって、挫折に近い経験だったかもしれない。プロ選手への憧れを抱きつつ、東大を目指した。

東大の入学式で久木田の心を動かした教授の言葉。

「受験って結局、将来何になりたいかを前提に考えるじゃないですか。でもなりたいもの、やりたいことがまだ決まっていなかった。東大は、入学してから専門を決めるまでに2年余裕があるのでいいなと思いました」

 県立熊本高校時代、受験勉強は、「入試前の3、4カ月は1日9時間くらい勉強しましたが、それまでは予習と宿題をしっかりやって、授業を聞くことで復習まで終わらせる、みたいな感じです。家での勉強は1日1時間半くらい。塾は行ったことがないです。だから、3年の7月の引退まで、サッカーを勉強と両立させるのに支障はありませんでした」

 将来どのような道を歩むべきかを探すために進んだ大学で、目標を決定付けたのは、入学式でのことだった。祝辞のため登壇した一人の教授の言葉に、久木田は心を動かされた。

「福島智教授という、全盲ろうで教授になった方なんです。『誰も挑戦したことのないことに挑戦する』ことの大切さを話されていて、自分も、と思ったんです。東大からプロになった人がいないのは知っていたし、やっぱり心のどこかにサッカー選手になる夢があった。これしかないと思いました」

 見定めると、勉強とサッカーのみに明け暮れる日々が始まった。

<次ページへ続く> 

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