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オランダ名門クラブの知られざる歴史。 

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posted2005/03/31 00:00

オランダ名門クラブの知られざる歴史。<Number Web>

 テレビ画面では気がつかないかもしれないが、小野伸二のいるフェイエノールトのサポーターたちは、アヤックスと対戦するとき、ユダヤ人を嘲笑する歌を歌い、ガス室の音を口でまねしている。いっぽう、アヤックスのサポーター席にはダビデの星の旗が翻っている――。

 オランダリーグの名門、アヤックスは、「ユダヤのクラブ」とされている。それは、いったいなぜなのか? 本書は、アフリカ・ウガンダで生まれ、アムステルダムで思春期を過ごしたユダヤ人のサッカー・ジャーナリスト、サイモン・クーパーが、1930年代まで遡ってクラブの隠された歴史を明らかにした一冊である。

 前作の『サッカーの敵』に続いて翻訳を担当した柳下毅一郎氏は言う。

 「サッカーと政治の関わりがクーパーのテーマ。それを地理的に広げて東欧やアフリカまで取材したのが前作。今回はそれを歴史的な時間軸で広げた作品だと思います」

 丹念な取材により、第二次世界大戦以前、アムステルダムのユダヤ人の多くがサポーターだったこと、会員にもユダヤ人が多数いたこと、戦後、ユダヤ人富豪の資金によってクラブが支えられたことなど、知られざる事実が明かされていく。だが、アヤックスが本格的に「ユダヤのクラブ」となっていくのは、実はヨハン・クライフが登場した'60年代以降なのだという。

 「アヤックスの知名度が上がるに従って、ユダヤのクラブというイメージが一人歩きしていったようです。これは、ナチスドイツの虐殺でオランダのユダヤ人が戦前の4分の1近くにまで減って、身近に感じられなくなったことも大きいと思う。他人事だから、ダビデの星の旗を振ったりもできるんですね。もちろん、実際のユダヤ人は快く思っていません」

 また、興味深いのは、アヤックスのフロント側が戦前のクラブとユダヤ人との関わりを認めようとしない点だ。なぜなら、'40年のナチス侵攻以降、アヤックスがユダヤ人会員たちをいわば“見殺し”にしたからである。

 「自分たちが過去に悪いことをしたと認めたがらないのは、アヤックスに限ったことでもオランダに限ったことでもなく、どこにでもあること。日本でもそうですよね。近年、寛容な国であったはずのオランダでも右傾化が進んでいる。そんな流れに対して、クーパーは『それでいいの?』っていうメッセージを発しているんです」

 スタジアムの中ではどれだけブーイングをしても構わないのがサッカーファンの流儀とはいえ、例えばフェイエノールトのサポーターによるガス室の口まねは、度が過ぎるように思える。サッカーは社会を反映する。クーパーが言うように、サッカーと政治は切っても切り離せないものだ。その点は、日本のサポーターも肝に銘じておく必要があるだろう。

 「正直に言うと、ついついやり過ぎてしまう人の気持ちは、すごくよくわかるんですよ。僕にとって、サッカーはやっちゃいけないことをやらせてくれる場なんです。本当はいけないことをやる快感ってありますよね。ただ、そのやっちゃいけないことの限度が、どこまで共有されているか、不安になることもあるんです。安易にナショナリズムと結びつく恐れがないとも言えない」

 バランス感覚を養うためにも、いちどアウェーでの応援を経験すべき、と柳下氏は言う。出発の前には、あわせて本書を一読することをお勧めしたい。

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