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大黒が移籍した仏グルノーブルとは? 

text by

弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2006/02/09 00:00

 日本代表FW大黒将志がフランス2部(リーグ2)、グルノーブルに移籍した。1月8日に現地入りしてから即始動。飾らない性格でチームにもすぐに溶け込み、14日のラバル戦で仏デビューを果たした。

 グルノーブルは5月中旬まで続くリーグ2で20チーム中暫定14位(1月21日時点)。上位3位までのリーグ1昇格枠をめぐって中位グループは団子状態。W杯を控えたこの時期の移籍に周囲から危惧する声も聞かれるが、大黒自身の目標はここでゴールすること、しかない。

 「2部だからって全然レベル低くない。ここで結果残せばすごい事やと思うし。W杯の事は考えてない。今は目の前の事からやっていかんと」

 グルノーブルはアルプスの白銀に囲まれた、仏南東部に位置する人口16万人ほどの小さな街。1968年には冬季五輪を開催し、そのためか街の雰囲気は外国人にもかなりオープンだ。スキー・リゾートで賑わうこの街のサッカー熱は古くからあったものの、株式会社組織としての「グルノーブル・フット38」が設立されたのは'97年。4部リーグのスタートから順調に昇格を果たし、携帯向け配信事業で成功した日本のIT企業インデックスと、第3セクター事業だった以前のクラブをより安定し充実した経営にしたいと望んでいた市当局との思惑が一致。一昨年の買収を経て、会長もゼネラル・ディレクター(以下GD)も日本人、という過去例を見ない「欧州」クラブとなった。まだまだ手作り感あふれる風情は地方クラブならでは。だが「10年後にチャンピオンズ・リーグ優勝」という野心をかかげ、まずはリーグ1昇格を狙う。

 横浜FCの創設と運営に携わり、英・独・仏・伊などの欧州サッカー事情をリサーチしてきた田部和良GDが大黒獲得の真意を語る。

 「中期プランとして3年後にリーグ1にいるのは当然。長期的に実現すべきなのは“グルノーブルからだったら日本人選手が世界の頂点にステップアップできる”と言われるクラブであること。大黒にはそのモデルケースになってもらいたい。プラティニらのシャンパン・サッカーやクライフ時代のアヤックスが理想。サッカーは、美しく勝つべき」

 出場2試合目のギャンガン戦、ホームであるスタッド・レディギエールには「オーグロ!」コールが巻き起こった。シーズン途中の移籍とあって、まだ周囲とのコンビは確立されていないが、日仏双方から期待される大黒にとって、FWの価値基準は積み上げたゴール数そのものにある。理想とするストライカーにシェフチェンコ(ACミラン)をあげるのも毎シーズン、コンスタントに20ゴール前後を叩き出すその決定力に憧憬を抱くからだ。

 「アドリアーノ(インテル)も『ドーン!』って一発はすごいけど、やっぱ僕からしたら、毎年きっちり点数いっぱい取ってるってことが一番すごい。だからシェフチェンコが世界最高」

 もちろんグルノーブルでの“今”の先には、憧れるシェフチェンコもウクライナ代表として待つドイツW杯がある。零下に凍るピッチやタフな日程に揉まれる中で、大黒が“BUT(ビュッ=仏語でゴールの意)”を重ね、“BUTEUR(ビュター=ゴールゲッター)”の称号を得たとき、それはアルプスの麓発の福音が日本代表にもたらされることを意味する。大黒とグルノーブルの、リスキーでスリリングな冒険が始まった。

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