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芸能人が濃いキャラを競い合う
五輪報道合戦。 

text by

芦部聡

芦部聡Satoshi Ashibe

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posted2008/08/27 00:00

芸能人が濃いキャラを競い合う五輪報道合戦。<Number Web>

 “平和の祭典”といわれるオリンピックの開催を胡錦涛国家主席が誇らしげに宣言したのと時を同じくして、ロシアのプーチン首相は北京から攻撃命令を下し、グルジアと武力衝突。

 そんな緊迫した事態が起きていたのに、NHKは何事もなかったかのように開会式の映像を流しつづける。長すぎる選手入場にしびれをきらしたゲストの谷村新司が「五輪をきっかけに中国が開かれた国に変わってくれたら」といった微妙な発言を口走っても、三宅アナは冷静に受け流し、チベット弾圧も、毒餃子事件も、ウイグル自治区の爆破事件も、一切俎上に載せず、淡々と中継を終えた。

 それもそのはず。NHKと民放連によって構成されるジャパンコンソーシアムは1億8000万ドル(契約締結時のレートで約212億円)もの放送権料をIOCに支払っているのだ。NHKはともかく、民放局にとっては、コンマ1%でも多くの視聴率を稼ぎ、莫大な投資を回収するのが最重要ミッションである。画面を祝賀ムード一色に染めて、日本代表を応援したいという雰囲気を醸成するのが彼らの責務だ。テレビ観戦をボイコットされてはたまらない。

 日本テレビは嵐の櫻井翔と明石家さんま、元NHKアナの堀尾正明をキャスターに迎え、さらにビーチバレーの浅尾美和をレポーターとして北京に送り込んだ。TBSはSMAP中居正広の一点張り。前ヤクルト監督の古田敦也と女優の相武紗季という『BRIO』の表紙みたいなカップルはフジテレビだ。テレビ朝日は報道ステーションでスポーツキャスターを務める松岡修造がスライド登板。テレビ東京は名司会者・草野仁&フィギュア女王・荒川静香のムーディーコンビでしっとりと伝える。さらに各局とも美人女子アナを取りそろえ、中継に彩りを添えている。

 民放局がスポーツとは無縁である芸能人をわざわざ北京に派遣する理由はただひとつ。視聴率のためだ。アマチュア競技の地味さを華やかな芸能人の魅力で補完するという、いかにもテレビ的な発想が背後にある。スポーツ中継のバラエティ番組化などと批判されることも多いが、それでもなお芸能人が起用されつづけるのは、やはり数字の裏付けがあるからなのだろう。スポーツ中継における芸能人は視聴率のドーピングだ。

 とはいえ、「凄い!」とか「金メダルのために頑張って!」程度のことしかいえない無芸な彼らが、本当に視聴率向上に寄与しているのか疑問が残る。いっそバラエティ番組化を推し進めるならば、今や織田裕二劇場と呼んでもいい世界陸上を見習って、濃厚キャラのキャスターを起用すべきだ。そうだよねえ為ェ〜?

 テレビ朝日の松岡修造? 熱血なだけで芸がない。あれでは織田裕二の領域には近づけない。北京で注目すべきキャスターはいないのか。

 いや、ビッグイベントの際にはスタジオを離れて現地入りする、あの男がいた。フジテレビの情報バラエティ『とくダネ!』の小倉智昭キャスターだ。取材のために自費で揃えたビデオカメラやICレコーダー等の機材を得意げに披露するオグさん。成田空港へ出発する際にスタッフから万歳三唱で見送られてにんまりするオグさん。会場で口角泡を飛ばして声援を送るオグさん。「じつは僕はヤワラちゃんの金は危ないって周囲に漏らしてた」との後日談を披露するオグさん……。五輪のすべてをオグさん目線で伝え、まさに小倉智昭のための北京を強烈に印象づける番組づくりは注目に値する。さわやかな朝は望むべくもないけれどね。

■関連コラム► スポーツ報道の現場にエキスパートを。 (2007年4月19日)
► バレーをショーにするな。竹下MVP問題を考える。 (2006年12月21日)

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