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オシムが予見、W杯後の日本と世界。
「あなた方には大きな可能性が」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2018/07/25 11:30
ベルギー戦の激闘は日本サッカー史に刻まれた。このW杯をどう未来に生かしていくか。オシムはそれを楽しみにしている。
小国がサッカーで成功する喜び。
――ワールドカップの効果はそんなところにもあるわけですね。
「私は事実から考察できることを話した。ここサラエボでも人々が街頭に出て『世界チャンピオン』などと叫んで喜びを爆発させている。しかしそうした喜びの陰で、ときにネガティブなことが生じることもある。
私が今、見ているのはクロアチアのあるジャーナリストが刊行したワールドカップの資料に関する番組だ。この大会のすべての記録が記されているとても便利なものだ」
――あなた自身はこのワールドカップに満足していますか。プレーのレベルや試合の内容、選手たちについて。
「素晴らしい大会だった。すべてがうまくいったといえる。幸いなことにクロアチアが、長い間望まれていたところまで到達することができた。彼らは優勝候補ではなくアウトサイダーの位置づけだったが、様々な困難を克服して世界2位の地位にまで到達したのはとてもポジティブな出来事だった。クロアチアは資源も何もない小国だが、ことサッカーでは才能に恵まれている。そんな国が成功を収めることができた。
アフリカのチームがひとつもノックアウトラウンドに残らなかったのは残念だった。それはサッカーが生き物であり、世界のどこでも行われていることの証拠でもあった」
――人々の心にこのワールドカップは深く刻み込まれました。
「君らも何か変わっていくものに触れた方がいいかも知れない。いろいろなこと、金の問題や選手と金の関係、金とスペクタクルの関係などを考えるために。とにかく莫大な金がかかっている。その金が様々なものを助けているのもまた事実だが。
ワールドカップを開催すれば、その国の大会後の生活その他が完全に別のものになる。その変化を見た他の国も、触発されてサッカーに力を入れるようになる。サッカーのもつ力を理解する。
サッカーだけに限らない。それはスポーツ全般にいえることだ。またサッカーだけでなく政治や経済も学ぶ必要がある。現実のリアリティなどもだ。自分たちの幸せが、他の人々の生活を脅かしていることもあることなどを」