JリーグPRESSBACK NUMBER
石川直宏が引退直前に佐藤由紀彦と。
「最後は自分らしく」「ナオのスタイルを」
posted2017/12/01 17:00
text by
馬場康平Kohei Baba
photograph by
Asami Enomoto
FC東京のバンディエラ、石川直宏は、2017年12月2日、3日を最後にユニフォームを脱ぐ決断をした。
相手がFC東京でともにプリンスと呼ばれた佐藤由紀彦だからこそ、そして引退を目前に控えた今だからこそ話しておきたいことが、彼にはあった。
前編は『石川直宏と佐藤由紀彦が今語ること。出会い、FC東京愛、そして引退――。』です。
――さて、2人が現役引退を意識したのは、どんなタイミングでしたか?
佐藤「ナオとも話すんですが、あまり考えていなかったんです。ピッチに入ったらいつも火が点くタイプだったので。最後の週も同じテンションでやっていましたし、意識することはなかったですね」
石川「俺の場合は、ユキさんのようにずっとみんなと練習できていたわけじゃない。離脱せずに積み重ねていって最終節を迎えることが理想。リハビリを乗り越えて今、ようやくそこに向けた準備を重ねられるようになってきた。引退を決意してそれを伝えたし、ある意味では最終節から逆算して進んできた。そうやってこの試合と決めて、そのために準備していくことは今までしたことがなかったから、複雑な想いもあります」
佐藤「もう今のナオには、好きなようにやってほしい。それしかない。やってきた人じゃないと、そういう言葉は掛けられないと思うし、ナオはナオのスタイルを貫いてほしい」
石川「器用じゃないし、自分がやり続けたことしかできないんですけどね。だから、スタイルは変わらない。若いころは自分がどうすべきか、自分が今何をやるべきかを考えてきた。そういう『自分が……』というスタンスでなければ、次に進むことなんてできなかったと思う。だから、いつも一杯いっぱいで自分のことしか考えられなかった。
今楽しみにしているのは、この引退までの過程でいろんな人を巻き込んできたこと。周りの人たちからパワーをもらってここまできたし、それをモチベーションにしてきた。先輩たちの去り際を何度も見てきたけど、最後は自分なりに自分らしく表現したい」
――以前、鈴木徳彦・前強化部長(現・岡山強化部)が『Jリーグに上がった時、サポーターとクラブをつなぐパイプになってくれたのがユキだった。そして、それをナオが引き継いでくれた』と、よく話していました。2人にとってファンや、サポーターはどんな存在でしたか?
佐藤「うーん……喜怒哀楽って感じですね。すごくムカついた時もあったし、すごくうれしいことも共有できた。大泣きすることもあったし、一緒に大笑いもした。東京に来てはじめて、ファンというか、仲間というか。そういう信頼関係を築けたと思っている。特にあの野暮ったい男たちとご飯もよく食べたし、いろんな話もしてきた。そこで気づいたのは価値観が一緒だったということ。勝つために、そこに対して1つになって戦っている。
選手は幸いにもピッチでそれを体現できる唯一の存在。彼らの想いをそこで表現するのが僕ら選手で、観客席で僕らの想いを声に出して表現してくれるのが彼ら東京サポーターだったんだと思う。でも、目指すべき勝利に向かってお互い最後まで諦めなかった。それがすごくこのクラブにいて心地良かった。男として、人として成長する上での糧となった。そこには、ファンと選手という垣根がなかった。唯一、そうやって距離を置かなかったクラブでもあった」
石川「俺もそういう時代を一緒に過ごしたし、その姿を見てきた。ユキさんがサポーターにとってどれだけ大切な存在だったか分かっていたからこそ、自分もこのクラブを強くしていく中でユキさんが味わったような喜怒哀楽を感じ取りたかった。そう強く思ってきたし、彼らに認められたいと思ってプレーしてきた。応援してくれる人たちに、素の自分をさらけ出すことで、また応援したいと思ってくれる。その繰り返しで絆が強くなっていく。多分、ユキさんがいた時が、一番良い意味で距離が近かったのだと思う」
佐藤「でもね、アレは近すぎたよ」(一同笑)