球道雑記BACK NUMBER
都市対抗で36年ぶり優勝のNTT東。
セオリー無視の過激な盗塁野球の真実。
posted2017/07/26 17:00
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Kyodo News
東京ドームで7月14日から12日間にわたって行われた第88回都市対抗野球は、7月25日に決勝戦が開催された。東京都のNTT東日本が、昨秋の日本選手権準優勝チームであるさいたま市の日本通運を10-4で下し、1981年の電電東京時代以来36年ぶり2度目の優勝を飾った。
今秋に控えるプロ野球ドラフト会議で上位指名候補と目されるプロ注目の右腕、西村天裕の調子が上がらない中での厳しい戦いとなったが、そのダメージを感じさせない豊富な投手力と、それをバックアップした野手陣の積極的なプレーは、チームスローガンである「アタック&チャレンジ」をまさしく体現していた。
印象的だったのは東芝(川崎市)と戦った準決勝、0-0で迎えた9回裏1死二塁の場面だ。
東芝の3番手で登板したJX-ENEOSからの補強選手・柏原史陽が投球モーションに入るか否かの絶妙なタイミングで、NTT東日本の二塁走者・喜納淳弥は猛然と三塁へスタートを切った。
まさかの三盗だ。
一打出ればサヨナラという場面だった。
セオリーから言えば、120パーセントどころか150パーセントの確信がなければ走って良い場面ではない。それでも喜納の足はさも当然のように三塁へ向いていた。
結果はセーフだった。
ギャンブルとも思っていなかった、異様な三盗。
東芝のベテラン捕手・井川良幸はこの奇襲に虚を突かれて三塁に投げることも出来なかった。
究極とも言える勝負の場面で三盗を決めた喜納が、この場面を振り返る。
「自分が走ったときは、(相手投手が)まだモーションを始動していなかったと思うんですけど、守っている野手の『走った』という声も、普通の球場だったら届くのに、ここは音でかき消されて届かない感じがしました。そういう状況もたぶん味方になったんじゃないかと思います」
マイクと巨大スピーカーで拡大される応援団の声、ドラムが鳴り響く音、そうした都市対抗野球独特の雰囲気も味方につけた。
さらに喜納はこう続ける。
「もしかしたらあそこで牽制が来たかもしれないです。だけどそこは勇気と賭けですよね。でも自分の中ではそこまでギャンブル性を感じてもいなかったんです」
喜納はかなりの確信をもって、三塁へスタートを切っていたと言うのだ。