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柏原竜二、27歳での引退に思うこと。
彼が箱根を走った4年間を忘れない。
posted2017/04/09 11:30
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Shigeki Yamamoto
柏原竜二が引退する。
まだ、27歳。
周囲からは「まだ早いんじゃないか」という声もあったようだが、ここ数年、怪我に苦しんだ本人の意思は固かった。
改めて書き記すまでもないが、柏原こそ、正真正銘の「山の神」である。柏原がいなければ、東洋大は名門の地位を築けなかったかもしれない。
2009年から4年連続で、箱根駅伝5区の区間賞。もうすぐ始まってから100年を迎えようとする箱根駅伝の歴史の中でも、特筆されるべきランナーだ。2017年から5区の区間が短縮されたこともあり、柏原のような峻烈な走りを山で見せる選手はもう現れないのではないか。
瀬古利彦氏が解説した柏原の走りの特殊性。
特に2009年、1年生柏原の箱根デビュー戦は圧巻だった。首位の早大から4分58秒差の9位でタスキを受けると、最初からグングン飛ばし、上りに入ると各校のランナーをごぼう抜きし始めた。
「自分の前を走っている選手を、とにかく抜いていくだけでした」
ゲーム感覚のようで、という言葉も聞かれた。対戦型ゲームで相手を倒し、次に登場してくる相手をまた倒していく――。
とにかく上りの駆動力は圧巻で、抜かれていく選手たちとはスピード感が違った。当時、中継車に乗っていた瀬古利彦氏は、柏原の走りをこう解説する。
「柏原君のフォームは、肩を『グッ、グッ』と使って、前方に体を進めていく。グッ、グッっていう推進力が素晴らしくて、本当に山上りに適したフォームだったんです」
芦ノ湖のゴール地点では、早大に22秒差をつけていた。箱根史上、最大のスペクタクルだった。