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履正社・安田尚憲vs.日大三・桜井周斗。
濃厚な5打席はまさに“闘争”だった。
posted2017/03/22 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
それはもう壮絶な“闘争”だった。
秋にあの清宮幸太郎に5連続三振を食らわせた桜井周斗(日大三高)のスライダーだ。
西の横綱・安田尚憲(履正社高)だって、そうは簡単に打てやしない。
それは、やる前からわかっていた。
桜井周斗のスライダーは“スライダー”じゃない。大きなカットボールだと考えたらよい。
スライダーはすべり幅が大きければ大きいほど、早くから変化し始める。桜井のそれもホームベースの横幅ほど、わりと大きなすべり幅がある。しかし打者の体感としては、ホームベースの上で真横、つまり直角にキュッと折れるような球道になる。
プロで言えば、昨季までの18年間で402セーブをあげた中日・岩瀬仁紀の“魔球”と呼ばれたスライダーに近い変化といってよい。
秋にやられた清宮幸太郎も左打者なら、安田も左だ。目の前からパッと消えていくような軌道のスライダーが、そうそう捉えられるわけがない。
このまま、清宮幸太郎の二の舞かと思ったが。
そんなこと考えているうちに、安田が立て続けに3三振を食らってしまう。どれも、勝負球はスライダーだった。
最初の2つは、目がまったく球道を追えずにスイングの下をスライダーがかいくぐった。3つ目の見逃しの時は、さすがの安田が息を飲むようにして見送った。
このまま、清宮幸太郎の二の舞かと思った。それぐらい、安田のスイングもタイミングも全く合っていない。
ところが、次の4打席目に桜井周斗のスライダーが抜けた。抜けて、安田の背中に当たった瞬間から、2人の有利・不利が逆になったように見えた。