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ケンブリッジ飛鳥が語る「プロと夢」。
2017年中にまず9秒台、そして……。
posted2017/02/23 11:30
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
NIKE JAPAN
向き合い続けてきた壁は、あと少しで超えられそうで、そう簡単には超えられない。
100メートルを走る。10秒を切って走る。その単純明快にしてとてつもなく大きな壁を超えることは、日本陸上男子短距離界における悲願のゴールであり、本当の意味で“世界”に挑むためのスタートでもある。
ケンブリッジ飛鳥は、そんなゴールとスタートを同時に切る最も有力な候補の一人だ。
4×100メートルリレーの銀メダリストとなり、一躍脚光を浴びたリオデジャネイロ五輪から半年。“大国”ジャマイカに生まれて大阪で育った23歳は、昨年末、自身のプロ化を宣言し、ナイキとのパートナー契約を発表した。
照れくさそうに笑う姿はその生い立ちに似合わずシャイで謙虚な性格を物語るが、声は小さくても、じっくりと考えて発する言葉には独特のパワーとリアリティがある。彼の頭の中では、壁を超えるイメージが夜ごと膨れ上がっている。
「ボルトに勝ったら、金メダルだ!」と思った。
――まずは、昨年のリオデジャネイロ五輪について聞かせてください。100メートルは準決勝敗退。4×100メートルリレーは銀メダルという素晴らしい成績でした。
「本当に、すごい経験をさせてもらったと思います。アンカーを務めさせてもらったリレーに関しては、チームメイトが本当に最高の走りをしてくれたので、早く走りたくて仕方がなくて。その気持ちが強すぎて、スタートを早く切り過ぎてしまうことが心配でした。ホントに『早く早く!』という感じで、気持ちを抑えるのがやっとでした。アンカーって、どうしてもそういう感情になってしまうんです」
――あのレースのこと、今でもはっきりと覚えています?
「はい。バトンを受け取った瞬間はウサイン・ボルト選手とほぼ横並びで……」
――どんなことが頭をよぎりました?
「『勝ったら金メダルだ!』と」
――「メダルを逃したらどうしよう」ではなく?
「そうですね(笑)。でも、走り始めれば何かを考える余裕はないので、そう思えたのはバトンをもらう瞬間だけです。結果的には圧倒的な差で負けてしまったので、やっぱり悔しかった……。走っている最中にボルトと接触してしまったし」