濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
神取忍や小池栄子の夫を飛び道具に。
RIZINに潜む、年末格闘技の矜持。
posted2016/12/04 08:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Munehiro Hashimoto
「いよいよ年末らしくなってきたねぇ」
そう言って記者仲間と苦笑いするような会見が立て続けにあった。12月29日、31日にさいたまスーパーアリーナで開催、大晦日にフジテレビ系で全国中継される『RIZIN』の対戦カード発表である。
11月26日に発表されたのは女子のワンマッチ。規格外の巨体を持つ柔術家ギャビ・ガルシアに、プロレスラーの神取忍が挑むことになった。会見に試合用コスチュームで出席した神取は気合い充分にして自信満々。「ギャビの心を折る」、「相手に威圧感がなくてがっかりした」というコメントを残している。
過去に総合格闘技の試合経験もあり、プロレスでは天龍源一郎とも闘った神取に、今さら怖いものなどないのだろう。RIZIN参戦も、主催者ではなく神取からのアピールがきっかけだったそうだ。
顔面OKのルールで52歳の神取が闘うのには疑問が。
とはいえ、である。“ミスター女子プロレス”“女子プロ界最強の男”とまで呼ばれた神取も52歳。プロレスでの試合数も減っている。総合の試合をしたのは15年以上前のことだ。いくらなんでも無理がありすぎる。しかも、試合は通常ルールで行なわれる予定だという。グローブを大きくしたり、試合時間を短くしたりといったことはない。もちろん打撃ありのルールだ。
「目の前に強い者がいたら倒したくなる」という神取のファイティング・スピリットを否定したくはない。実際、会見での神取の姿にはゾクッとするような凄味があった。当日、リングに向かう光景を見たら、きっと胸が熱くなるんだろう。
ただそれでも言っておかなくてはならない。現状では、もし神取が186cm・90kgの柔術世界王者と闘って無事にリングを降りることができたとしても、それは偶然である可能性が高いのだ。顔面を殴り合う、すなわち脳にダメージを与えることが可能なルールの闘いを、本人が望んでいるという理由でやらせるのは疑問だ。