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日本は「スラッガー受難の国」なのか。
守りの野球を美化し、攻撃を軽視。

posted2016/09/07 07:00

 
日本は「スラッガー受難の国」なのか。守りの野球を美化し、攻撃を軽視。<Number Web> photograph by Kyodo News

プロでも、本塁打王は他のタイトルに比べて外国人が多い。そこには、育成段階での「偏り」も影響しているはずだ。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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 異様な試合だった。

 8月27日にQVCマリンフィールドで行われた大学日本代表と高校日本代表の「侍ジャパン壮行試合」のことだ。

 大学も高校も7投手の継投で、ともに打撃陣を文字通り圧倒した。

 大学も高校も、世代を代表するトップクラスの投手が1、2イニングを全力で放ってくる。そのため、まったく打てない。高校代表は、18三振というやられっぷりだった。

 4打数ノーヒットに終わった高校代表の4番の九鬼隆平(秀岳館)は、こう脱帽した。

「こういうレベルのピッチャーを打てないと上ではやっていけないんだと、勉強になった」

 野球は主導権を持つ投手に有利なスポーツだ。いいピッチャーと、いい打者が対戦したら、だいたいピッチャーが勝つ。だからこの結果もわからないでもないが、それにしても両代表の「投手偏重」ぶりが気になった。

 高校側の投手陣も例年になくレベルが高かったとはいえ、大学も5-0で勝利したものの、2回以降はさっぱりだった。初回、先発の早川隆久(木更津総合)の不安定な立ち上がりを攻め、内野安打とフィルダースチョイスを誘発し、流れに乗じて5得点とビッグイニングにしたのはさすがだったが、その2つの「ミス」がなければ、0-0という展開も十分にあり得たと思う。

守備力と機動力を重視し、長打の意識が低い。

 大学と高校の打線に共通していたのは、巧みさは感じられても、迫力は感じない点だ。

 ある大学野球の関係者は言う。

「今のアマチュア球界は、いい選手はみんなどこかで左打ちに変えてしまう。そうすると一塁ベースに近いので足を生かそうという発想になり、早い段階から、うまいバッティングを身につけようとする。飛ばす力はあっても、中距離打者で収まってしまうんです。右のスラッガーは、ほんと、今の大学球界にはいないですね。4番を打っていた白鴎大学の大山(悠輔)君ぐらいですかね、今は」

 そんな偏った状況に風穴を開けたと思われた高校ナンバー1スラッガー、早実の清宮幸太郎は今回、代表に選ばれなかった。なぜ、1人で1点を稼ぐ可能性のもっとも高い打者が選ばれないのだろう。

 高校代表も、大学代表も、守備力と機動力を重視するあまり、「長打で点を取る」というシンプルな意識があまりにも低過ぎるのではないか。

【次ページ】 決定力不足ならば、打ち続けるしかない。

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