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奥原希望の実家で見た印象的な居間。
“思考力”が編み出した銅メダル。

posted2016/08/22 16:00

 
奥原希望の実家で見た印象的な居間。“思考力”が編み出した銅メダル。<Number Web> photograph by JMPA

奥原希望は、山口茜との日本人対決に勝利してベスト4に進んだ。これまでの世界ランクの最高位は3位。4年後、25歳で迎える東京五輪は金を目指している。

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鈴木快美

鈴木快美Yoshimi Suzuki

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JMPA

 オリンピックでもつぶやいていた。

「この舞台に立てることに感謝して、思い切り楽しもう」

 そう自分に言い聞かせ、最後に「よっし」で締めたあと、コートに入る。これは「考えないと勝てない」と言ってきた奥原希望が辿りついた、勝利を引き寄せる「儀式」だ。

 幼い頃から、自分の目標は何なのか、そこに達するためにはどうすればいいかをずっと考えてきた。そうすることで、夢はいっそう明確になり、困難にも立ち向かえる。周囲にどれだけ支えられているか、深く感じるようにもなった。

 156cmという小柄な体躯、2度にわたるヒザの手術――。

 いずれも乗り越えるための方程式は難解だったはずだが、培ってきた思考する姿勢が“銅メダル”という答えを導きだした。

 かつて長野にある奥原の実家を訪ねたことがある。農家も兼ねる広い家の居間には、偉人の格言や節目に記された決意表明がびっしりと貼られていた。

「練習は裏切らない」

「インターハイ優勝。そのために、感謝、あいさつ、礼儀を忘れない。小さいことにも手を抜かない。迷ったら苦しい道を選ぶ」

「苦しみの向こうに喜びがある」

 父親の圭永(きよなが)さんが「何か感じてくれれば」と貼ったものもあれば、奥原自身が書いたものもある。かつては圭永さんが3人の子どもたちに目標を書かせていたが、次第に彼が何も言わなくても、目標を設定することは奥原自身の習慣になっていた。

バドミントン経験のない父との猛練習。

 この“思考の習慣”には副次効果もあった。奥原が意志を明確にするたび、体育会気質の圭永さんの心にも火が点いた。最初の着火点は、小3の全国大会で全敗を喫したあと。悔しがりの奥原が「もっと練習したい」と申し出ると、「よっしゃ」と、奮起したのだ。

 メインの練習は夜7時からの2時間。姉と兄の3人で、父のノックをひたすら受けるという地味な練習だった。これは圭永さんにバドミントン経験がなく、打ちながらの相手ができなかったためである。

 そんな方法でよくトップに、と驚かされるが、一瞬の気の緩みも見逃さない圭永さんの視線が、「ミスをしない」、「1球1球を大切にする」という、コート全体をカバーする粘りのスタイルを作った。

【次ページ】 奥原「家にいると緊張感がありましたね」

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