球体とリズムBACK NUMBER
18年前、世界98位だったウェールズ。
EUROベスト8、ベイルの冒険は続く。
posted2016/06/30 07:30
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
AFLO
「僕らウェールズは代表フットボールシーンのマンチェスター・シティだ。世界ランクは98位、コンゴ共和国よりも下だからね」
ウェールズ出身のロックバンド、マニック・ストリート・プリーチャーズのニッキー・ワイヤーは18年前、不甲斐ない母国代表をそう評した。EURO2016のウェールズ代表公式ソングを歌う現在の彼らは、時代が大きく変わったことを実感しているはずだ。
アブダビの財力を得たシティはチャンピオンズリーグで4強に入るほどの強豪となり、愛する代表チームは初出場のEUROでベスト8に残ったのだから。
あの頃と違って、もうどちらもマンチェスター・ユナイテッドとイングランド代表から馬鹿にされるような存在ではない。
いや、赤い悪魔とスリーライオンズは、彼らに羨望の眼差しさえ向けているかもしれない。アレックス・ファーガソン監督が勇退した後のユナイテッドは氷河期のただなかにあるし、面白い若手の存在により期待されていたイングランドは主要大会でまたしても早期敗退を強いられた。
前時代的な指揮官ロイ・ホジソンは重要な場面で策の無さを露呈し、出身地ロンドンのクロイドン地区とほぼ同じ人口規模のアイスランドに屈辱的な逆転負けを喫している。EU離脱の狂騒渦巻くフットボールの母国は、さらなる激震に見舞われた。
イングランドとウェールズの間にまだ差はあるか。
グループステージ第2節で実現した英国対決の前に、エースのギャレス・ベイルはイングランドのいかなる選手もウェールズではレギュラーになれないと受け取れるような発言をした。それは言い過ぎだとしても、両チームの差がかつてないほど狭まっているのは事実だ。
ベイル、アーロン・ラムジー、ジョー・アレンら黄金世代と呼ばれる主軸は、イングランドの同じポジションの選手と比較してもまったく見劣りしない。むしろ今大会にかぎっていえば、ハリー・ケイン、ウェイン・ルーニー、デル・アリの働きは、彼らと比べるまでもなく低調だった。