詳説日本野球研究BACK NUMBER
日本人野手のMLB成績は十分に成功?
安打500本を一つの基準にしてみると。
posted2015/12/12 10:30
text by
小関順二Junji Koseki
photograph by
Hideki Sugiyama
メジャーリーグを描いた本で好きなのは『シューレス・ジョー』(W・P・キンセラ著、文春文庫)と『スカウト トニー・ルカデロ最後の旅』(マーク・ワインガードナー著、東京書籍)の2冊だ。『シューレス・ジョー』は映画『フィールド・オブ・ドリームス』の原作としても知られ、内容は今さら言うまでもない。
この本の中にエディ・シズンズという人物が登場し、「わしはリリーフ・ピッチャーが出現する以前からのリリーフ・ピッチャーだった。この意味がわかるかな? 当時は先発ピッチャーがほとんどの試合を最後まで投げ抜いたものだ――完投できないピッチャーは弱いピッチャーと見られてね」と語るシーンがある。つまり87歳のシズンズ老人は自身を回想して卑下しているのだが、同時に「レギュラーではなかったが、シカゴ・カブスでプレーしたことがある」と自慢もしている。
後日、主人公が図書館で『ベースボール・エンサイクロピーディア』でシズンズについて調べると、彼がメジャーリーグで投げた事実がなかったことが判明する。シズンズは嘘をついていたのだ。
それに対して主人公はシズンズの思いを代弁するように、「おそらくエディ・シズンズは『人生でいちばん欲しいものが手に入らぬのなら、過去にそれを持っていたようなふりをして、やがて形ある現実となり、かけがえのない子供のように胸に抱きしめられるようになるまで、くりかえしそれについて語り、何度でも体験することにしよう。それだけ徹底して体験してしまえば、もうだれもわたしからそれを奪うことはできないはずだ』と考えたのだ」と述懐する。
50人のメジャーリーガーを掘り出した男。
もう1冊の『スカウト』は、ワインガードナーという若いライターがマイク・シュミットなど50人のメジャーリーガーを掘り出した老スカウト、トニー・ルカデロに密着してその生きざまに迫ったノンフィクションだ。「50人のメジャーリーガーをスカウト」したことがどれだけ凄いか、本書の前半にこんなことが書かれている。
「一九八○年にフィラデルフィア・フィリーズが、各スカウトが送りだした大リーガーの数を一覧表にしたところ、なんとトニーは他のスカウト全部を合わせたより多かった。驚いた広報部があちこち電話すると、他の球団のもっとも腕のいいベテランのスカウトの実績ですら、トニーの約半分であることがわかった」