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もっとゴルフが上手くなりたいだけ――。
1人で米ツアー回る有村智恵の現在地。

posted2015/10/20 18:25

 
もっとゴルフが上手くなりたいだけ――。1人で米ツアー回る有村智恵の現在地。<Number Web> photograph by Shizuka Minami

米国の下部ツアーを回る中で「いかに自分が日本で恵まれた環境にいたか気づいた」と語る有村。臥薪嘗胆の時を過ごす。

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南しずか

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 米女子ゴルフツアーもいよいよ佳境に入り、先週はアジアシリーズ2戦目となる韓国を舞台に熱い戦いが繰り広げられた。だが同じ頃、有村智恵はその熱戦に加わることなく、アメリカで下部ツアー最終戦の舞台に立っていた。

 フロリダ州の「LPGAインターナショナル」のジョーンズコース18番グリーン。最終ホールでバーディーパットを決めてもニコリともせず、厳しい表情のままホールアウトする。

 この瞬間、有村の米ツアー3年目が終了した。

「悔しさはありますが、(ふたつのツアーを転戦して)精一杯頑張ったので、後悔はないです」

 試合中より随分表情が和らぎ、時おり報道陣に笑顔も見せつつ丁寧に答える。

 有村がレギュラーツアーと下部ツアーというふたつのツアーに出場せざるをえなかったのは、昨季の成績不振のため今季レギュラーツアーの試合数が限られていたからだ。そもそも米ツアーに飛び込んだ3年前は、手首の怪我が原因でスイングのバランスを崩していた時期でもあった。環境の大きな変化と故障のタイミングが重なってしまい、自分のゴルフを見失うきっかけを作ってしまった。結局、復調を目指して試行錯誤しているうちに、ずるずると成績は下降線を辿っていった。

 下部ツアーでは、年間獲得賞金ランク10位以内の選手に来季のレギュラーツアーのシード権が与えられる。今季、有村は下部ツアーで10位の選手と惜しくも83万円の差で15位となり、シード権の獲得を逃してしまった。

日本のスター選手が、たった1人で米ツアーを回る!?

 有村は今季開幕前に、「1人で転戦すること」を決断していた。

 移動距離が長く、さらに連戦続きのタフな米ツアーでは、マネージャーやトレーナー、または身内を帯同させる選手が多い。だがそんな周囲の状況を見た上で、有村は1人でツアーを転戦することを選んだのだ。

 下部ツアーを回るにあたって、大会運営側が選手のために用意してくれる無料のホームステイシステム“ハウジング”を時々利用することにした。最寄りの空港から会場まで車で数時間という“ど田舎”で大会が開催されるため、そもそもホテルやレストランが会場付近にないということも多いのだ。大会期間中は、スーパーに食材を買いに行き、自分で料理もする。時には他の選手と同じ家に宿泊することもある。

 そんな“有村一人旅”は、すぐに日本のスポーツメディアで話題になった。

 すでに日本で通算13勝をあげているスター選手が、プロの一歩を踏み出したばかりの若いアメリカ人選手に混ざって、アメリカ中を転戦しているのだから当然だ。

 だが、当の本人が自分の置かれている厳しい状況を一番よく理解しているのだ。実際、米ツアーに参戦してから「悔しい」という言葉を何度発したことか。試合後、堪えきれずに思わず涙を流したことも一度や二度ではない。

 それでも米ツアーに挑戦し続けるのは「ただゴルフが上手くなりたいから」なのだ。

【次ページ】 世界で最も過酷なツアーを楽しんでいる有村。

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