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長谷部誠、ドイツ9年目は「質」の年。
キャリア最高の昨季を超えるために。
posted2015/08/14 11:00
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
AFLO
並の選手には持ちえないようなモチベーションと向上心をもって、長谷部誠はブンデスリーガ9度目のシーズンに挑もうとしている。
リーグ開幕を翌週に控え、今シーズンはじめての公式戦となったドイツ杯1回戦のブレーマーSV戦でも、長谷部は右サイドバックとして出場し、勝利に貢献した。
長谷部が2013年9月にヴォルフスブルクを離れた大きな理由の一つは、本職のボランチの選手としてなかなか扱ってもらえないことだった。当時のヘキンク監督に自分の希望するポジションを伝えても、多くの試合で右サイドバックの選手として起用されてしまう。かといって、自分の望むポジション以外で起用されたとしても、チームのために全力を尽くすという、サッカー選手として大切にしているポリシーを崩すわけにはいかない。
そうした葛藤のなかで2年前、チームの心臓として、つまり、中盤の中央のポジションの選手として必要としてくれる、ニュルンベルクへと戦いの場を移したのだった。
ニュルンベルクでは、シーズン後半戦は怪我のためにリーグ最終節のわずか1試合の出場にとどまった。それでもボランチとしての活躍が評価されて、昨シーズン開幕前にフランクフルトへの移籍が実現したのだった。
良いプレーが逆にボランチ起用を遠ざけているが……。
フェー監督が新たに就任した今シーズンは、プレシーズンからサイドバックで起用されることが多かった。長谷部が良いプレーをしていることを理由に、フェー監督が右サイドバックを補強するつもりはないことを明言したあとも、長谷部から困惑した様子やいら立ちなどが伝わってくることもなかった。
「こういうことはこれまでもけっこう経験してきているので。ヴォルフスブルクのときにも最後はずっとサイドバックをやっていた。だから、そのころよりは余裕があるかな」
落ち着いていられる理由の一つは、長いキャリアの中で様々な経験をしてきたことにある。今シーズンのフランクフルトはダブルボランチを採用する試合が多くなりそうだが、自身の望む中盤センターのポジションが2つもあるのに、そこで起用される機会は多くない。むしろ、右サイドバックで良いプレーを見せるほどボランチでの起用が遠のきかねない。そんな状況に対しても、長谷部は微笑みを浮かべ、こう話している。
「(現在の状況を)難しいと考えるか、チャンスと考えるかは、その人間次第なんじゃないですかね」
そして、一呼吸置いてこう答えた。
「サッカーに限らず、人生がそういうものでしょう。自分がやりたいことだけを出来るなんてことは少ないし。自分の望むところではないところで仕事を与えられて、どれだけやれるか。それが、その人間の価値になるとも思いますし」