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日本ハム・中島卓也の「6、7年計画」。
“非力”な高校時代のスカウト秘話。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/06/09 10:50
「目標の選手は川崎宗則」という中島卓也。小兵が守備と足で活路を探る姿も、彼が応援される理由の1つなのかもしれない。
2番、遊撃手は二塁手とは比較にならない忙しさ。
今季の中島卓也は、メジャー帰りの田中賢介が加入した影響でずっと遊撃手を続けている。
2番・遊撃手の“日常”は忙しい。二塁手とは比較にならない。
広い守備範囲、三遊間のプレー、けん制、外野の守備位置にも気を使う、バットを持てば送りバントに進塁打、盗塁にエンドラン、1球ごとにサインが変わる場面もあるし、ロングヒットならホームに帰ってこなくてはならない。
「練習してるもの、中島は。筋トレも欠かさず続けて、バットも人一倍振ってますよ。性格がいいから大人にもかわいがられて、彼が練習するならってコーチが付き合う。自然と内容の濃い練習になるしね」
特別な理由なんてありませんよ。そう、岩井スカウトは“秘訣”の存在を一蹴した。
「しんどい場面、きびしいなぁ……と思った瞬間、自分を支えてくれるのって、自分は普段これだけ練習してるんだって、そういう確信しかないんですよ、私も経験があるけど」
集中力に限らず、“秘訣”とか“マジック”のたぐいは、プロ野球の現実の中には存在しないという。
「彼は故障やケガに強い。きっとあっちこっち痛いはずですよ、2番ショートだったら。それを故障だと思うか、当たり前のことと考えるか。そこの違いが、ほんとの体の強さなんですよ。“体の強さ”っていうのは、心身の強さですからね」
「ちょっと違うとすれば、球団全体の空気」
素質開花ですね……そう振ったら、
「いやいや、まだまだ」
ひと言で、またしても一蹴されてしまった。
「プロで“開花”っていう言葉を使っていいのは、2年も3年も続けて実績を挙げた時だけです。1年だけの働きなんて、腹の中では誰も信じちゃいませんよ。せいぜい、花が開きかけてきたって、そういう段階でしょ。ほんとの真価は来年、そして再来年です。そこまでいって初めて、『日本ハムのショートは中島卓也』って、本当の看板ができるわけですからね」
異能の才人・中島卓也をプロ野球に導いた“師”が発する激励は、その通りプロの世界の非情な現実をありのままに表している。そういう“大人”に囲まれながら練習に励むことが、才人の才の限界をさらに広げていく。
「ほかの世界は知りませんが、プロ野球で選手が成長していくのに特別な理由なんてありませんよ。練習すること、良い練習をしようとする心。それだけですよ。まあ、もし中島に何かちょっと人と違うことがあったとすれば、あいつをなんとかしてやろうっていう空気を球団全体に作ったことかなぁ……。それにしても、あいつの日ごろの練習態度、生活態度がそういうムードを生んだってことなんですけどね」